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2022.09.16

少年法改正にともなう「実名報道」をめぐるメディアの試行錯誤

(以下、朝日新聞デジタルとNHK NEWS WEBの記事より要約・転載)

 

成人年齢の引き下げに伴って2022年4月1日に少年法が改正され、罪を犯したとされる18歳・19歳は新たに「特定少年」として位置づけられることになりました。特定少年については、基本的な考え方はこれまでと同じように立ち直りを重視し保護の対象としますが、検察に送られる対象となる事件の幅が拡大され、一定の重さの罪を犯した場合は大人と同じ裁判を受けます。このためメディアも、犯罪を犯した特定少年の実名報道のありかたを問われることに。ここでは、メディアの試行錯誤の例として朝日新聞の検討過程を中心にご紹介します。

 

●事件報道における「実名報道」と「少年」

 

事件報道では事実をベースとし、その上に議論が構築されるという考えから、実名報道が原則とされています。

 

一方で少年については、適切な教育や処遇によって柔軟に成長する可能性が比較的高く、生育環境による影響も大きいことから、大人と同様には扱えないとされてきました。少年法61条では、名前や職業、容貌など本人だとわかるような報道(推知報道)を禁じています。この規定に罰則はなく、過去には逮捕された18歳の少年を実名報道するメディアもあったため、日本新聞協会が匿名を申し合わせる指針を策定。少年については実名報道を控えるようになりました。

 

しかしこのたびの少年法改正により、特定少年は起訴後少年法61条の対象外へ。日本新聞協会の指針も改訂され、特定少年の実名報道については各社の判断に任されることになりました。

 

NHK NEWS WEBでは、少年院から出院したのち、支援者の存在もあって立ち直った人の声を紹介。実名が報じられることで、「事件によってはやむをえないと思うが、立ち直りが難しいと諦めてしまう人や、社会から否定されたとしてまた悪いことをしようと思う人もいるかもしれない」との懸念を伝えています。

 

メディアは特定少年に対しても、生き続けることや立ち直ることを重視する法の精神と、伝える意義との間で厳しい判断を迫られています。

 

 

●朝日新聞の方針

 

法改正を前に、朝日新聞では社会部を中心に議論が重ねられ、以下の3つのポイントが主な共通認識として浮かび上がりました。

 

(1)特定少年であっても健全育成、立ち直りを重視する少年法の適用を受けることは変わらない。

 

(2)一方で、民法改正で成人と認められ、選挙権も与えられている。18歳未満とは違う「責任ある主体としての立場」を重視し、一律に推知報道を禁止せず、社会的な批判・論評の対象にするという法改正の趣旨を踏まえて判断する必要がある。

 

(3)ネットでの報道は半永久的に閲覧可能になる恐れがあり、更生の妨げにならない配慮も必要。

 

そのうえでさらなる議論の結果、以下を大まかな方針として決めることになりました。

 

(1)少年である以上、立ち直りに配慮して、実名は例外的な事件に限定する。

 

(2)基本的には故意の犯罪行為で人を死なせ、社会的に影響が大きい事件を対象とする。

 

(3)ただし、罪名だけで決めるのではなく、犯罪の状況、内容、社会に与えた影響の大きさ、少年の役割などを総合的に検討する。

 

●ネット時代にどう対応するか

 

 

デジタルで報じた記事は「デジタルタトゥー(入れ墨)」として半永久的に残ってしまいます。名前を報じられた少年の更生の妨げにならないようにするにはどうするべきかが、大きな課題として浮上しました。

 

 

これについては、事案によって短期で掲載を終えることや、そもそも紙面だけにとどめデジタルには掲載しないようにするなど、個別に検討を加えながら対応がなされています。

 

 

また、有料会員向けに記事を限定することで、検索エンジンにひっかからないようになり、拡散が抑えられるという意見がある一方で、有料記事をコピーして無料サイトに転載する人もいることを考えると、本質的な差はないのではないか、という指摘もあります。

 

●メディアの説明責任

 

 

法改正後、特定少年が実名報道の対象となった初の事件(甲府で起きた放火殺人事件)では、実名報道に踏み切った新聞各社は、なぜ実名報道に踏み切ったか紙面で見解を述べました。地元の山梨日日新聞では「全記者が意見を交わしたほか、少年事件の被害者や専門家らに見解を聞き、議論を深めてきました」と、議論のプロセスをオープンにしました。メディア側もかつてより格段に説明責任が求められていると感じており、「プロセス、判断の経緯などを少しでも多く読者に伝えるべく、知恵を出していきたい」と、朝日新聞の編集担当は語ります。

 

▼引用元

 

 

「特定少年の実名報道、重い判断 朝日新聞『メディアと倫理委員会』」(朝日新聞デジタル 202/8/31)
https://www.asahi.com/articles/DA3S15402412.html

 

 

「4月1日『改正少年法』施行 どう変わるのか 課題は」(NHK NEWS WEB 2022/3/31)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220331/k10013560621000.html

 

 

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