ジャーナリズムXアワード

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2020.02.07

ジャーナリズムX(エックス)アワード公募開始記念
記者発表会&キックオフイベント開催報告
――市民の視点でジャーナリズムの新しい形を探り、応援する

ジャーナリズム支援市民基金は、1月28日(火)、渋谷ヒカリエ(東京都渋谷区)にて、「ジャーナリズムX(エックス)アワード公募開始記念 記者発表会&キックオフイベント」を開催しました。当日は、悪天候にもかかわらずメディア関係者など約20名にお集まりいただきました。

 

開会の挨拶、「ジャーナリズムX(エックス)アワード」概要説明

 

冒頭、ジャーナリズム支援市民基金の星川淳代表幹事が開会の挨拶をし、ジャーナリズムX(エックス)アワード設立の理由や目的について次のように説明しました。概要は以下の通りです。

 

————————————————–星川淳代表幹事
アワードを立ち上げたのは、日本のジャーナリズムが死にかけているという危機感を、私が代表理事を務める市民活動助成基金(一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト=abt)の理事会で共有したことがきっかけです。abtが支援するようなNGO/NPOなど市民活動は、ジャーナリズムが機能しないと十分な成果を出せません。

 

そのために何をすればいいか、様々な分野の関係者を交えて意見交換を重ねた結果、ジャーナリズムの活性化には、権力監視といった伝統的な役割に加え、若い世代の参加や、これまでジャーナリズムの範疇に入らなかったような新しい動きも視野に入れなければいけないことに気づきました。自分たちが「ジャーナリズムはどうあるべきか」をわかっているわけではないし、「こうだ」と決められる時代でもないことを学んだのです。

 

このアワードは、運営する側、選ぶ側に現役のジャーナリストを入れていないことが大きな特徴ですが、基本的には市民社会で幅広い経験を持つ人たちが、これから現れようとするジャーナリズムを応援するという形にしたいと思います。そのほうが、幅広く柔軟にジャーナリズムの未来を探れるのではないかと考えました。マスコミもフリーも、プロやアマも、さらには自分をジャーナリストとみなし考えていない人たちたちも含めて、多様な活動成果を取り上げていくつもりです。
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次に事務局の美濃部がアワードの概要、日程を説明し、こう述べました。「市民団体は懸命に活動していますが、その情報が正しい形で伝わらないという日本の異常な事態に悩んできました。アワードがその突破口になることを期待しています」。

 

外部選考委員、運営幹事・運営アドバイザー紹介

 

次に、外部選考委員、運営幹事・運営アドバイザー紹介を行ないました。

 

外部選考委員の一人、ボーダレス・ジャパン代表取締役社長の田口一成さんは、資金やノウハウなどがシェアできる“社会起業家たちのプラットフォーム”を提供することで、世界の貧困や労働問題、人種差別など様々な分野の社会起業家を成功に導く事業をされています。選考委員に加わったことについて次のように語りました。「社会起業家は、社会課題をビジネスで解決することで社会実装していきます。ジャーナリズムには以前から関心があり、僕らの力をどこに使えばいいのか、力の矛先を探すなかで、ジャーナリズムの分野とも連携し合いながら活動していきたい。アワードの選考に当たっては、素直な目で見て、意見していければと考えています」。

 

また、2人の運営幹事がアワードの方向性について、次のとおり見解を表明しました。

 

「情報を出す側も受け手側も変わり、新聞・テレビなどみんなが見ていたものが見られなくなりました。個人がSNSなどで発信することが可能になった一方、自分の見たい情報だけを見る傾向が強くなっているように思います。何を伝えて、どう受け取るかは一筋縄ではいかないですが、アワードの中で、普遍的なジャーナリズムのあり方と新しいジャーナリズムの形の2つが見えてくるといいと思っています」。(奥田)

 

「ジャーナリズムはどういうものなのか、どうなるべきなのか、我々自身の中にもはっきりした枠組みがあるわけではありません。みなさまのいろいろな試みを見させていただいて、その中から可能性を見出していきたいと思います」。(寺中)

 

日本のジャーナリズム最前線の活動事例紹介

 

次に、「日本のジャーナリズム最前線の活動事例紹介」として、マスメディアとは一線を画した独自のジャーナリズム活動を続ける3団体に、活動の背景や自らが考えるジャーナリズムについて紹介していただきました。

 

NPO法人ワセダクロニクル
国や組織を超えて活動する日本で唯一の探査ジャーナリズム

 

NPO法人ワセダクロニクルワセダクロニクルは、探査ジャーナリズム(※1)を行ない、ウェブサイト(https://www.wasedachronicle.org/)を中心に情報を発信しています。日本で唯一、世界探査ジャーナリズムネットワーク(GIJN、加盟77か国、177組織)に加盟しているニュース組織で、「インディペンデント、ノンプロフィット、インヴェスティゲート」をキーワードとして、権力に屈せずに探査報道する姿勢を貫き、支援者の寄付で運営しています。

 

冒頭、編集幹事の木村英昭さんは、あらゆる社会問題が国境を越えてつながっていることを挙げ、世界中のジャーナリストがコラボレート(共同)することの重要性を訴えるとともに、自分たちも国境、組織、民族、言語、文化を超えたジャーナリズムの組織という意識をもって活動していると述べました。

 

ワセダクロニクル編集長の渡辺周さんからは、イギリスのガーディアン紙との共同企画・取材で、都営住宅の孤独死に関する記事を両メディアで配信した事例や、フィリピンのバナナ農園における生産者の不当な労働環境を、海外NGOと協働で取材した事例、また政策シンクタンク構想日本などジャーナリズムとは異なる分野との共同で、国の予算の使い道を検索できるデータベース「JUDGIT!(ジャジット!)」を構築した事例などが紹介され、まさに国境や組織を超えた連携によって成り立つジャーナリズム組織であることがうかがえました。

 

注1:探査ジャーナリズム(investigative journalism)とは、政治的・経済的・社会的権力が公開されることを望まずに意図的に隠している事実、またはそれら権力が偶発的に隠している事実を、気づき、調査し、発掘し、ストーリーとして構成したニュースを最終的に公衆に向けて暴露する事実探査型のジャーナリズム活動を指す(ワセダクロニクルのサイトより)。

 

認定NPO法人OurPlanet-TV
映像作品で当事者の声を伝える

 

広告に頼らない独立系メディアOurPlanet-TV(http://www.ourplanet-tv.org/)は、2001年から活動を開始した認定NPOで、ミッション・ステートメントとして「Standing Together, Creating the Future.」を掲げ、「市民が主役のメディアで、社会を変えよう」という志のもと、人権、ジェンダー、環境など様々な題材のドキュメンタリー映像を、年間約100本配信しています。

 

登壇したOurPlanet-TVの白石草(はじめ)代表は、2011年3月の原発事故以降、番組の半分は原発事故関連だったが、今後は幅を広げたいと語り、最近の事例としてプラスチックごみと日本のリサイクル問題を描いた作品や、映像制作の担い手を増やす試みとして福島県の小高(おだか)中学校での映像制作授業、また当事者が映像を通じて自分と向き合う試みとして、ギャンブル依存症の人たちと一緒に映像を作る活動などを紹介されました。

 

また、『オルタナティブ・メディア〜変革のための市民メディア入門』(ミッチ・ウィルツ著、 大月書店)を引用し、オルタナティブ・メディアの定義として、「参加者の平等性、意思決定は民主的であるべき、性別や人種による区別がないこと」などを挙げ、組織や働き方としてもこうした平等性や公正さを求めたいと述べました。

 

最後に、『メディア・ビオトープ メディアの生態系をデザインする』(水越伸著、紀伊国屋書店、2005)の考え方を紹介し、次のように強調しました。「マスメディアが寡占状態で、人工的に植林された杉林だとすると、私たちは作り手と受け手が相互にコミュニケーションを持つメディア・ビオトープだと考えている。ひとつひとつは小さくても、いくつか集まってネットワークを形成していけば簡単に消えることはないと思っています」。

 

NPO法人グリーンズ
関係性をデザインするメディア

 

NPO法人グリーンズ「いかしあうつながりがあふれる幸せな社会」をキーワードとして、関係性のデザインを探究するNPO法人グリーンズ(https://greenz.jp/)は、毎月約25万人が閲覧するWEBマガジン「greenz.jp」を中心に、さまざまな活動を行なっています。

 

代表理事の鈴木菜央さんは、グリーンズの目標や活動内容について次のように説明します。「世界は有限で、僕らは全員、相互につながっているシステムの一員です。人と自分、自分と社会、お互いを“いかしあうつながり”、関係性をデザインできる人を増やし、持続可能な社会をめざしていこうと活動しています」

 

WEBマガジンでは、多様な分野の人々の取材記事をこれまで約6000件掲載している他、読者、取材対象者、ライター、編集者などが集まり、食事とお酒を囲みながらソーシャルデザインを考えるイベント「グリーンドリンクス」、企業内のワークショップ、自治体と協働し地方で起業する人の支援なども行なっているそうです。

 

最後に、アワードへの期待を次のように語りました。「ジャーナリズムを市民から考える、市民が一緒に作ろうと前に一歩出たというのは意味があると思います。垣根を越えてコラボレーションすることで、日本に新しい形の本当の探査型報道とか、市民型ジャーナリズムというものが生まれるきっかけにしてほしい」。

 

ジャーナリズム支援市民基金が描く社会ビジョンについて

 

このあと幹事の一人である関本幸が、アワードを通して描く社会ビジョンについて語りました。概要は以下の通りです。

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関本幸ジャーナリズムが多様化している中、今回の3つの事例を聞き、アイデア、構想、実行力に勇気づけられました。このアワードは新しいアイデアを生み出す宝庫になると思います。市民が自分のコミュニティやネットワークを使い、地域性、言語など多様なアプローチで、そうしたアイデアを応用するような流れになることを期待しています。

 

これまでの自分の環境NGOにおける活動を振り返ると、環境と暮らしを守るに、は、フロントラインにいる人を支えることが大切だと感じます。今日の3つの事例に応用するなら、ワセダクロニクルはデータベースでの問題の曝露、OurPlanet-TVなら映像で現場を伝えること、グリーンズは柔軟なコミュニティの構築により、せめぎあうフロントラインを押しもどす、などが考えられます。こうしたことで、社会に厚みが増します。一人ひとりが能動的に、自由闊達に動き、公正な社会を作っていく――ジャーナリズム支援市民基金が、そんな社会の厚みを作っていく仕組みになることを期待しています。
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質疑応答

 

その後の質疑応答では下記のような意見交換が行なわれました。

 

Q: アワード選考では、どのような点が評価対象となるのか。市民的な視点、独立性などか。

A: 既存の賞はジャーナリストとしての専門性が評価されることが多いが、本アワードは「対象が社会課題解決にどのような影響を与えたか」という点や独立性などを評価する。また、コンテンツだけでなく表現の形態・手法も評価するので、そうした全体のバランスを見たい。

 

Q:対象期間について。市民活動は連続性があり単年で区切るのは難しい。

A: 連続性があることは承知しているが、その年の成果としてまとめられるものを出して欲しい。

 

Q: 基金としての今後のスケジュールのイメージを聞きたい。
A: 2~3年アワードを続けるうちに社会的認知を広げられれば、寄付などによって財源を増やせるはずなので、次のステップであるプログラム助成や組織基盤強化支援に進みたい。アワードは一つの手法であり、最終的にめざすのはジャーナリズムの視点で社会の状況を少しでも変えるためにどうするかということ。

 

Q:メディアが「マスゴミ」などと言われ、ジャーナリストをめざす学生は絶望している。次の世代を育てたいので、大学生・高校生にもアワードを広報してほしい。
A: 若い人を対象に、どういうジャーナリズムが求められているか学び合う場が必要だと思う。アワードは、若い世代の目線から見た社会問題の気づきを知る機会になるので、若い人たちへの広報は重視していく。また同時に、地方での活動も拾っていきたい。

 

この他、次のような意見も出ました。

 

「アワードの審査にジャーナリストが入っていないのは斬新。ジャーナリズムに市民がアクターとして登場した初めてのことだと思う。市民が自分たちの求めるジャーナリズムはこうだということを、市民の側から訴えられるのはとてもうれしい」。

 

「独立メディアは圧倒的に資金が足りない。公正な企業のCSR予算を提供してもらうことや、社会起業家からの貢献なども視野に入れ、財源確保を模索してほしい」。

 

40分近く活発な質疑応答が行われたあと、キックオフイベントは終了しました。

 

※ 本アワードは(一社)アクト・ビヨンド・トラストと(公財)庭野平和財団からの支援を受けています。

 

(写真提供/オルタナ)