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【イベントレポート】 ジャーナリズムX(エックス)2021 ~コロナの時代にジャーナリズムの壁を突き破る~
一人ひとりの人生を深く理解することで社会のあり方を問い直したい(「ニッポン複雑紀行」編集長・望月優大さん)
解決策に目を向けポジティブなニュースの流通量を増やしたい(「IDEAS FOR GOOD」編集部・富山恵梨香さん)
3月20日(土)、ジャーナリズム支援市民基金はゲストに第1回ジャーナリズムX(エックス)アワードY賞受賞の「ニッポン複雑紀行」編集長・望月優大さんと、Z賞(選考委員奨励賞)受賞の「IDEAS FOR GOOD」編集部より富山恵梨香さんをお招きして、オンラインイベントを開催しました。基金代表幹事の星川淳と事務局によるアワードの説明や現在公募中の第2回アワード概要紹介のあと、望月さんと富山さんからそれぞれ、webメディア運営や取材手法についてお話しいただきました。[第2回ジャーナリズムX(エックス)アワード現在応募受付中!(応募締切: 4/18)]
望月優大さん(「ニッポン複雑紀行」編集長)
一人ひとりの人生を深く理解することで、社会のあり方を問い直したい
外国籍の人々と共に暮らす社会をイメージし、共有するメディア作り
昨年はY賞を受賞させていただき、ありがとうございます。ニッポン複雑紀行は難民支援協会というNPOが主体となっているwebマガジンで、メディア運営の原資は基本的に寄付金から充てられていますので、今回の受賞はとても貴重で活用させていただいています。ライターさんやカメラマンさんにも然るべきお金を支払うというのはとても重要なことだと思っていて、その点でもとても助かっております。
私自身は難民支援協会のスタッフではなく外部から関わっており、日本国内で暮らしている難民の方やそれ以外の外国にルーツをもつ様々な方たちのインタビューを記事化しています。量としては通常の新聞記事の何倍にもなるようなテキストに加えて写真もたくさん掲載して届けるという活動で、2017年から続けています。今回は2019年の部分を対象として受賞させていただきました。
ニッポン複雑紀行を始めた背景のひとつに、日本の難民認定が非常に厳しいことがあります。軍のクーデターに反対するデモの弾圧で世界から注目されているミャンマーですが、2019年の難民認定の割合というのが、同じ難民条約に批准している国の中でも日本だけ特異に低く、さらにそれがあまり世の中に知られていません。難民や外国にルーツを持つ方に対する理解や共感が広がっていなかったり、場合によってはヘイトのような考え方を持つ方も非常に多いということで、その状況を変えたいという思いがありました。
今回の国会でも入管法の改正案が政府から出ていますが、難民認定の申請者を日本国内で保護するというよりは、今以上に送り返しやすくするという内容すら含んでおり、むしろ悪い方向に進んでいます。こうしたことが起きないように、またこういう法案に対して反対の声が上がっていくようにというのが根っこの問題意識にあります。
加えて、難民に限らず労働者の方も含めて、日本国内で90年代のいわゆるバブル景気の頃から外国にルーツを持つ方が増えています。リーマンショックや3.11のタイミングで減るものの、その後技能実習生や留学生という形でさらに増えていますが、いわゆる日本国籍者全体の人数の低下と同じ時に外国籍の方が増えるという状況です。いろいろな方が暮らしている日本をイメージする、これまであたりまえだったことも見直しが必要になっているということなどを共有するためのメディアを作りたいという思いもあります。
「“ひとつの民族”で構成される国がよい国である」という価値観とは別の軸を打ち出したい
コンセプトとしては、何らかの事件を速報的に伝えたいというわけではなく、日本の社会のあり方にフォーカスしたいと思っています。事実の認識として「ニッポンは複雑である」ということ、日本は単一民族だと思っている方も多いので、複雑な国であるということを認識するとともに、それ自体を価値観として肯定していこうという形でコンセプトを作っています。
去年の1月の麻生副総理の講演で、「日本はずっとひとつの民族であり、そうであることはよい国である」という発言がありました。ひとつの民族であるという「事実認識」と、ひとつの民族であるのはよい国であるという「価値観」を含んだ発言だったのですが、私たちは事実の認識に対しても価値観においても違う軸を打ち出していきたいという思いがあります。その手法として、じっくりとインタビューをさせていただくことによって、一人ひとりの人生に深く寄り添い、その人の個人の人生を理解することで、そこから見える日本社会のあり方というものが読む方にも伝わればいいなと思っています。
「普通」や「正常」が排除するもの。社会は全員に対して「同じ」でも「平等」でもない
たとえば、2019年に作ったインタビュー記事を今日は事例として紹介させてください。ちょうど先週の3月17日に札幌地裁で同性婚に関する歴史的な判決が出たことを知っている方も多いと思いますが、日本ではいわゆる同性婚というものができない状況にあります。それに対して現在日本中で一斉に訴訟が行なわれていて、その最初の札幌地裁判決で憲法14条の法の下の平等に違反しているという判決が出たのですが、それがどう外国人や移民の問題に関係するのかということをお話します。
この写真に後ろ姿で映っているお二人は、台湾生まれの男性と日本で生まれた男性のいわゆる国際同性カップルです(ニッポン複雑紀行2019年6月6日記事「ただ世界でたった一人の『家族』と一緒にいたかった。台湾と日本、結婚できない『二人の男性』が辿り着いた場所」)。何が起きていたかというと、台湾生まれの男性が留学ビザを喪失してしまった後に在留資格がない状態、いわゆるビザが切れている状態になってしまい、それでも日本で知り合った男性と家族として一緒に暮らしていきたいという思いで、長年在留資格がない状態で暮らさざるを得ませんでした。ですが、ある日警察の職質を受けて摘発されてしまい収容施設に収容されて、台湾に帰れと言われたりしたそうです。実はこのカップルは、その後裁判を起こして日本で初めて同性カップルであることを理由に在留特別許可が出ました。しかし、そもそもこれが同性カップルではなく異性の国際カップルであれば、日本の方と結婚することにより配偶者の在留資格を取ることができたわけです。当然ビザがあるのでつかまらずに生きていけます。つまり、そこを分けるのは異性か同性かというカップルのあり方の違いだけなんですね。同性愛というのは個人が選べるものではないので、同性婚が認められないという条件のもと、日本では国際同性カップルであるだけで家族を維持すること自体が難しいという状況に追い込まれてしまう場合があるわけです。
そういった意味で、お一人おひとりにつぶさにお話をきかせていただき、個人の人生を理解しようとすることを通じて、まさにそこから社会のあり方がどう歪んでいるのか、制度がどう不十分であるかということにつき当たってくるという事例として、このインタビュー記事は理解していただけるのではないかと思います。
外国にルーツを持つ方がこれからさらに多く日本で暮らしていくようになり、社会のあり方が変わってくる、あるいは実は日本には元々そうした人たちが暮らしていたということをインタビューを通じて認識していくと、いかに現在の制度や人々の偏見のようなものに埋め込まれている“普通”とか“正常”が、そうした方たちの望ましい暮らしというものを不可能にしてきたか、排除してきたかということが見えてきます。社会は全員に対して同じ顔をしているわけではなくて、平等でもありません。同じ社会でも男性から見える社会と女性から見える社会は違うし、先ほどの国際同性カップルの方たちのように、その状況にいなければそこに問題があることすら気づかないということがたくさんあります。でも、一人ひとりの人生やどういう問題に直面したのかということを直接伺うことで、私たちが普段スルーしてしまったり、気づかなくても生きていけてしまうこの社会のいろんな問題や、自分たちが何を排除しているのかということが具体的に見えてくると思っています。そのためにインタビューという形を続けています。
富山恵梨香さん(「IDEAS FOR GOOD」編集部)
解決策に目を向けポジティブなニュースの流通量を増やしたい
社会課題の解決策にフォーカスしたソリューションジャーナリズム
IDEAS FOR GOODは、社会を“もっと”良くする世界のアイデアを集めたwebマガジンで、気候変動や海洋プラスチック問題、ジェンダー不平等など、あらゆる課題を対象としています。世界各国にライターがおり、ライターや編集部が実際に各地に行って現地の声を聞くというところを大切にしています。
最初にサイトの概要を説明しますと、現在サイトは5年目に入り、月刊で66万5000PV、ユニークユーザー数は43万4000人で、20代を中心におよそ13名の編集部員で平日2本以上のニュース記事、コラム記事、取材記事を公開しています。
主な読者層はミレニアル世代、Z世代を中心とした18歳~34歳で、学生や企業のCSR担当など多様な読者に支えられています。読者の特徴として、以前、読者100名を対象にアンケート取ったことがあるのですが、社会課題に興味にある方や大切にするキーワードとして、正直、ウソがない、顔が見えるという点をあげる方が多いことがわかり、私たちもメディア運営上その点を大切にしています。
情報収集からアクションまでの4つのプロセス
今回IDEAS FOR GOODの取り組みとしてご紹介したいのが、読者の方々に情報収集からアクションを起こしてもらうまでのプロセスとして、「知る(NEWS)」、「対話する(DIALOGUE)」、「体験する(EXPERIENCE)」、「共創する(COLLABORATION)」の4つのカテゴリーです。
◆「知る(NEWS)」――興味、関心を入口として社会課題を知ってもらう
「知る(NEWS)」という点では、これは記事すべてに共通することですが、IDEAS FOR GOODではソリューションジャーナリズムの手法を取り入れていまして、社会課題そのものではなくその解決策の方にフォーカスして発信しています。昨今、社会課題の深刻化を伝えるメディアが数多くありますが、私たちは課題ではなく解決策に目を向けることで、世の中にポジティブなニュースの流通量を増やしたいと考えています。
こちらは、異常気象による洪水から市民を守る気候公園がコペンハーゲンにできたという記事ですが、記事のイントロとしてコペンハーゲンで頻繁に起こっている集中豪雨という課題を提示した後に、そのソリューションとして災害時に命を守る防水システムを備えた気候公園の建築デザインを紹介しています。気候変動という社会課題に興味がなかったとしても、ユニークな建築やデザインというソリューションを入口として社会課題に興味を持つ人を増やしたいと思っていまして、これ以外にもアートやテクノロジーなど幅広い分野の切り口を用意し、自分が興味を持っていることや得意なことをきっかけとして社会課題を自分事としてとらえ、自分にも何かできるかもしれないとアクションを起こしてもらえることをめざしています。
◆「対話する(DIALOGUE)」――読者の意見をメディア運営に反映
「対話する(DIALOGUE)」についてはSNSでインタラクティブに読者の皆さんと対話することももちろんですが、定期的にイベントや座談会、今はオンラインがメインになりますが、読者の方々と直接お話をして、今どういう課題を抱えているか、また興味があるかというような対話をする機会を設け、そこから得たみなさんの意見をメディア運営に反映させています。右下の写真は、先日行なったコンストラクティブジャーナリズム(建設的ジャーナリズム=Constructive Journalism)に関するワークショップですが、多くの方が参加してくれました。また、編集部がパーソナリティになってポッドキャストを配信していまして、ゲストにお話をしていただくことで社会課題をより身近に感じてもらったり、編集部の思いや日頃の考えを、声を通して伝えたりすることで読者との距離を縮め、顔が見える存在になりたいと思っています。月に1本程度の頻度で発信しています。
◆「体験する(EXPERIENCE)」――社会課題解決の現場を五感で感じてもらう
「体験する(EXPERIENCE)」については、IDEAS FOR GOODは「体験」もメディアとしてとらえていて、「10本の記事を読むよりも1回体験したほうが人は変われる」という考えの中で、読者の方に社会課題解決の現場などを直接体験して、五感で感じていただくというプログラムを提供しています。取材や編集をする中で文字の可能性と同時に限界も感じることがあり、文章にすることで世界や社会に枠を作ってしまうことも時にあるように思うからです。
写真(左)はコロナ前のものになりますが、ベトナムや鹿児島、京都の体験ツアーの様子で、今はオンラインのツアーも準備をしているところです。この他、体験できるメディアとして空間プロジェクトも行なっていまして、写真(右)は昨日ローンチしたものですが、オフィスの一角をミュージアムにする「Office as a Museum」というプロジェクトで、社員の方々にサスティナブルな商品を実際に手に取って体験してもらいながら、プロダクトの裏側にある社会課題に興味を持ってもらうという仕組みです。
◆「共創する(COLLABORATION)」――企業の社会課題解決事業を支援
最後は「共創する(COLLABORATION)」ですが、2019年にスタートした、アイデアを形に変えるというコンセプトの企業向け社会課題解決事業支援プラットフォーム「Business Design Lab」です。過去にIDEAS FOR GOODが紹介したアイデアをイシュー別、業界別の検索可能なデータベースにして、事業に必要なインプットからアウトプットまでを支援することでソリューションジャーナリズムの新しい形を模索しています。私たちはメディアとして企業のトランジションを応援したいと思っていまして、これからいいことをしようとしている企業や、自分たちのやり方を考えてがんばろうとしている方たちのプロセス支援をしていくことに大きなインパクトがあると思っています。
社会課題の解決策にフォーカスしたソリューションジャーナリズム
最後に今後の取り組みになりますが、IDEAS FOR GOODを読めば読むほど社会や環境が再生される仕組みを作りたいと考えたのが、本年度から始める寄付プロジェクト「UU fund」です。図の左側の読者とメディアの間にあるのが、「UU fund」なんですが、記事のアクセス人数×0.1円をこれまでIDEAS FOR GOODが取材した団体さんに寄付をするというプロジェクトです。私たちは、記事は読者と取材先へのギフトだと思っていまして、このプロジェクトで生み出すのは、読者の「読む」というアクションが取材先へのエンパワーメントになるという状態です。IDEAS FOR GOODに掲載されたことで団体さんの活動の輪がもっと広がって、それが団体さんのモチベーションになるような仕組みができたらいいなと、今準備をしています。
主催者側を交えて対話
ここからはゲストのお二人と主催者側から代表幹事の星川淳、運営幹事の関本幸を交えて対話を行ないました。主にお二人のお話を中心にご紹介します。
星川:本来、昨年に授賞記念シンポジウムを行なう予定でしたがコロナでかなわず、お二人が顔を合わせるのは初めてだと思いますので、望月さん、富山さん、お互いに一言ずつお願いします。
富山:私はいつも望月さんの活動をSNSやメディアで拝見していて、今日ご一緒できてうれしいです。取材時に意識されていることとして、個人のストーリーを大切しているというお話でしたが、そこはIDEAS FOR GOODも同様で、引き続きそうした形で活動を続けられたらいいなと思いました。
望月:IDEAS FOR GOODの手法として、社会課題とソリューションというお話があったと思いますが、ニッポン複雑紀行の場合は社会課題に寄った取材手法ではありますが、一方で、それを突き詰めると、たとえば日本語の学習機会を得るためには社会的にどういう仕組みが必要かとか、あるいは労働自体がどう変わらなければいけないのかとか、課題を突き詰めるとソリューションの部分にもつながってきます。今日は課題と解決策という切り口で自分たちがやっていることを見直すきっかけにもなって、お話を聞けて良かったと思いました。
星川:お二人の活動で印象的なのは取材の手法です。ニッポン複雑紀行の写真展のギャラリートークの記事を読んで、編集長もいつも取材にくっついていく、カメラマンも何十時間も費やしているという姿勢がすごいと思いました。かなり手間をかけていますが、取材の際に心がけていることがあれば教えてください。
望月:テーマがマイノリティの人たちに関わるなかで、取材者がその意味でのマイノリティではない場合に、わからないことがたくさんあると思っています。女性に関するテーマに男性が取り組むというのと同じ構図になる場合があると思っていて、わかったと思ってもわかっていなかったり、浅い理解で間違ったことを書いてしまうと、むしろなくしたかった偏見を強化してしまうことにもつながるリスクがあると感じています。読者からの反応や取材の過程で教えていただくことも多く、学んだことをいかに記事に反映させるか、読者に理解を深めてもらうかは、いつも考えています。それは文章だけでなく写真も含めて、どういう構成でやるのがいいのか考えながらやっています。
星川:「社会人類学の姿勢に似ていますね」という視聴者からコメントがありましたが、そうかもしれないですね。IDEAS FOR GOODはテーマの幅広さとソリューションにかなり迫っていますが、いいものを拾ってくる、そしてそれを記事として仕上げるコツみたいなものはありますか。
富山:ライターさんが世界各国にいるのが大きいかなと思っています。ライターさんそれぞれ専門分野があるので、テーマを提案いただいたりもしています。またIDEAS FOR GOODで特徴的なのは、編集部自身が足を動かして積極的に取材を行なっている点で、コロナ前はたとえば欧州に行ってサステナビリティの先進的な現場を見て五感で感じるというようなことは時間をかけてやっていました。現地に行って一次情報を得るということは心がけていますね。
質疑応答
美濃部:IDEAS FOR GOODの富山さんへの質問です。企業のトランジションのサポートについて具体的な事例があれば教えてください。
富山:ひとつは先ほどご紹介した、企業のオフィスでサステナブルな商品の展示を行なうというものがあります。そのほかにも数多くのおプロジェクトがあるのですが、 飲食店で使う陶磁器をサステナブルにするという取り組みを陶磁器メーカーさん と一緒にやっています。そのためには、食全体、食の業界全体を変えなければいけないという考えの元、レストランをサステナブルに変えようという想いで 、サステナブルレストラン向けのオウンドメディアを始めています。
美濃部:お二人に、「伝えたいことを『届ける』ために大切なことはなんですか」という質問がきています。
望月:自分が一番に理解しようとするということが重要だと思います。いかに自分が課題や主題、目の前の方がこれまで感じてきた困難をより深いレベルでわかることができるか――そうした理解の深さを追及することではじめて、読者にわかりやすく届けるということが可能になると思います。また、それが世の中で「どうわかられてこなかったか」ということも、それによって初めて理解できると思っています。自分が一番の理解者になろうとすることが、読者にわかりやすく届ける方法を洗練させていくことの前提になるのではないでしょうか。
富山:遠いところの社会課題や環境問題を「自分事」にしてもらうのは難しいと思いますが、そのために音楽、食、デザインなど誰にとっても身近なところを間口として、そこから社会課題に広げてもらう、ソリューションから届けて社会課題にも興味を持ってもらうというポジティブな伝え方 は大事にしていきたいと思っています。それが本当に届いたかというのはわかりづらい部分もありますが、SNSのシェアやメンションしてくれるなど、たった一人でもその人の気持ちが変えられたらうれしいと思っています。そういう小さな積み重ね、小さな反応を一つひとつ大切にしたいと思っています。
美濃部:今の質問にさらに追加で質問すると、たとえば原発の放射能の問題や農薬被害といった重い問題を社会に訴求させるために、どういった工夫をすればいいかコメントいただけないでしょうか。
望月:「重い問題」の定義が難しい部分はありますが、様々な社会問題の中で、受益や被害が偏っている問題は解決が難しいことが多いと思います。エネルギーや米軍基地に関わる問題が典型だと思いますが、社会的に大きな問題があるということと、それがどこに偏って発生しているかということは全然別の話で、全体として問題を抱えていても特定のところにしか負荷がかかっていない場合、負荷がかかっている人はマイナーな状況になるので、多数決では勝ち目がないといったマイノリティをめぐる問題と共通する構図があると思います。先ほど同性婚の話をしましたが、当事者以外にいかに理解してもらうか、先ほど「自分事」というお話もあったように、いかに解決について主体的に考えられる人を増やすのかということだと思います。
全員に理解してもらうことをめざすのも大事ですが、社会を変えるのに必要十分な人数にしっかり理解を深めてもらうことがまずは重要だと思うので、コンセプトをもった発信、スタンスがはっきりした発信、それである程度の人数に達するようにやっていくのが一つの形だと思います。難民の問題も同じような構図になっていて、そもそも当事者は投票すらできないですし、人数も少ないので、いかに周りの人を巻き込めるかが勝負になると思います。裁判なども組み合わせるということも手段になってくると思います。
富山: 重い問題はどうしても目をそむけたくなってしまうので、ソリューションの提示や、完全な解決ではないけれどそれに向かってがんばっている人がいるというような、ポジティブな側面に目を向けてもらうことも大事だと思っています。
美濃部:本日は大変有意義なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
▼ニッポン複雑紀行(受賞者:認定NPO法人 難民支援協会)
▼IDEAS FOR GOOD(受賞者:ハーチ株式会社)