受賞一覧
第5回ジャーナリズムX(エックス)アワード受賞案件
2023~2024年に発表された活動成果や取り組みを対象とする、第5回ジャーナリズムX(エックス)アワードの受賞案件を決定しましたので、お知らせします。
ジャーナリズムX賞(大賞)1件 賞金100万円
『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書)および講演、動画配信など一連の活動
〈受賞者:青木美希〉
ジャーナリズムY賞1件 賞金30万円
「屋久島町政の不正や不祥事をめぐる一連の調査報道」(ウェブメディア)
※以下、代表的な記事
●屋久島町長交際費問題
●補助金不正請求事件
●海底清掃問題
〈受賞者:屋久島ポスト共同代表・鹿島幹男+武田剛〉
ジャーナリズムZ賞(選考委員奨励賞)2件 各賞金5万円(五十音順)
◆『お巡りさん、その職務質問大丈夫ですか?――ルポ 日本のレイシャル・プロファイリング』(ころから)およびレイシャル・プロファイリングに関するWeb記事
〈受賞者:國﨑万智〉
◆『大人になったヤングケアラー ~本当に聴きたかった声~』(映画)および上映イベント
〈受賞者:米田愛子〉 ※賞金辞退
受賞者コメント
青木美希
報じるべきことが、報じられていない。
私はエネルギー研究者の娘として生まれ、学生時代から原発について30年調べてきました。地方紙2社を経て全国紙で勤め、新聞記者を計23年間していましたが、2020年に突然、記者職を外されました。原発事故の被害や政策の実態が伝えられていない。何とか伝えようと休みに自費で調べてきたことを出版しようとしましたが、勤務先の全国紙から再三にわたって認めないと止められ、プロフィールから社名を削り、個人として得た情報で出した本がこの本です。出版翌日から上司に呼び出され、圧力を受け続けています。一方でこの本は脱原発文学大賞、貧困ジャーナリズム賞、隆祥館書店ノンフィクション大賞入賞と受賞が続き、6刷となり、朗読版、韓国語版も出版されました。
多くの講演にお呼びいただき話していますが、圧力は強まるばかりです。個人の言論を権力でつぶそうとする。戦前に戻ったかのような恐ろしさを感じます。このたびの受賞、とても励みになります。執筆、講演、YouTube、SNSなどでの発信を包括して評価をいただいたこと、皆様のおかげです。ありがとうございます。いかなる圧力を受けようと、一人の人間として取材し、伝えていきたいと思っています。
屋久島ポスト共同代表・鹿島幹男+武田剛
遠い離島の市民メディアに光を当てていただき、誠にありがとうございます。
なぜ、世界自然遺産の屋久島で調査報道なのか。そんな疑問をもたれる方が多いと思います。でも実際に暮らすと、島を治める町役場で不正や不祥事が続いていることがわかってきます。町幹部がニセの領収書で不正精算をしたり、自然保護の寄付金3000万円が消えたりしても、町が説明責任を果たすことはありません。
そこで、住民有志で調査報道を始めると、さらに多くの問題が明らかになりました。虚偽報告で国から補助金1億円を受給したり、町長が国会議員らに高額贈答を続けていたり……。そして報道を続けるうちに、町が公金の使い方を改めるようになってきました。
いずれの問題もマスコミは取材しませんが、住民にとっては「大ニュース」です。マスコミに頼らなくても、自分たちの問題は自ら報じて改善する。新たな時代の市民メディアとして、屋久島ポストは取材を続けています。
國﨑万智
「君みたいな系統でそういう髪型の人は、薬物を持ってることが多いから」と警察官に言われた。免許証を見せると、名前から外国人であることがわかったのか警察官の態度が急変した。
これらは、取材に応じてくれた外国ルーツの人たちの訴えの一部です。「人種」や肌の色、民族的出自を理由に、犯罪関与の疑いがあるとして、警察官から日常的に職務質問される人たちがいます。
取材を通じて明らかになったのは、レイシャル・プロファイリングは、単に警察官個人の偏見や差別意識によってのみ常態化しているのではないということです。検挙のノルマ、「外国人に見える人」への法的要件を満たさない職務質問を奨励する指導。こうした制度的・組織的な差別の構造が温存される限り、公権力による人権侵害をなくすことはできません。
「被害が繰り返されないために」と証言を寄せてくださった外国ルーツの人や元警察官をはじめ、本書に関わってくださった皆さまに、心から感謝と敬意を表します。今回の受賞を糧に、レイシャル・プロファイリングを終わらせるための取材に、今後も邁進してまいります。
米田愛子
本作はNPO法人UPTREEと共に制作した。きっかけは、ヤングケアラーなどを経験した当事者の「思いを形にしたい」という話からだった。ヤングケアラーは18歳以下と定義されているが、ケアや生きづらさはその後の人生に影響を及ぼし、地続きになっている。そんな「子ども時代のケアが今も生きづらさにつながっている」という現実を本作に落とし込んだ。ヤングケアラーは大人になった後も葛藤している。
従来の報道では当事者の声は切り抜きや編集の影響で注目されにくかった。そのため、本作は「大人になったヤングケアラー」の生の声を反映し、問題の深刻さを浮き彫りにしたいと考えた。インタビューを通じて当事者が語った言葉は、社会に届けるべき声だと強く感じている。
取材に協力してくれた当事者や支援団体など関係者に感謝する。ヤングケアラーの問題は今も続いている。この受賞を励みに、これからも声を聴く活動を続けていきたい。
選考を終えて
隔年開催に変えて初めての第5回ジャーナリズムXアワード(以下、JXA)は、告知努力が及ばなかったせいか応募こそ少なめだったものの、時代を映した、手応えのある成果物の数々から多くを学ばせていただきました。審査プロセスは従来どおり、当基金の運営幹事5名による一次選考で二次選考に送るノミネート候補を絞り込み、外部有識者3名を加えた二次選考でX、Y、Z賞合わせて4件を選出しました。
応募対象期間の2023~24年を振り返ると、国内ではジャニーズ性加害問題、闇バイト被害の広がり、福島原発事故に由来するALPS処理汚染水の海洋放出開始、安倍派裏金問題、能登半島地震、最高裁による旧優生保護法違憲判決、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞、辺野古米軍新基地建設における軟弱地盤の工事強行、世界ではイスラエルのガザ侵攻、米国でのトランプ大統領再選、韓国の尹大統領(当時)による「非常戒厳」宣布など、影響が現在も続く事件・事態が相次ぎました。また、グテーレス国連事務総長が「地球沸騰化」と警鐘を鳴らした気候変動による猛暑は、2年連続して記録破りとなり、全世界で頻発と激化の一途をたどる山林火災や洪水にも結びついています。
今回のJXAは結果として、普遍性と日本社会の特殊性とを両睨みにした、規模は比較的小さいけれども大きな意味を持つジャーナリズムの営みを後押しする形になりました。普遍性と特殊性とは、日本列島に生きる私たち市民が何であれ目の前の問題を考えるとき、いつも意識すべき2本の座標かもしれません。等身大の取り組みで問題の現場に根差すことと併せ、改めてJXAらしい評価軸に基づく授賞の機会に恵まれたことを深く感謝いたします。
JXAの運営母体であるジャーナリズム支援市民基金は、ジャーナリズムに関わるプロジェクトの助成を設立目的とし、「ジャーナリストではないけれども多様な社会活動の経験豊富な一般市民がジャーナリズムを応援する」という趣旨のもとで運営してきました。そのため、JXAの選考には「助成のような授賞」の意図が滲みます。今回の受賞者にも、ぜひ今後の活動に活かしていただければ幸いです。
受賞作の一つに添えられた後記で、著者が執筆のきっかけを次のように述べています。「話を聞き、証言を記録しなければ、権力を持つ側によっていかに理不尽な扱いを受け、尊厳を傷つけられても、なかったことにされてしまう。そして力を持つ人たちにとって不都合な事実が闇に葬られれば、同じ不条理がいつか繰り返されてしまう」。これはジャーナリズムの普遍的な役割を指し示すとともに、JXAの運営動機でもあり、また今回の受賞作すべてに通底する問題意識です。じつはこの言葉、Z賞受賞者の一人である國﨑さんが中国留学中、731部隊の看護師だった日本人女性(その娘の証言によると、女性は敗戦時、部隊の軍医から記憶を失う薬剤を注射されて帰国の機を逃し、現地の男性と結婚して中国にとどまった)と、生前に出会えなかった悔恨から出たものです。取り組む課題が異なっても、ジャーナリズムの使命が不変であることの例証ではないでしょうか。
以下、お寄せいただいた全エントリーのそれぞれに敬意を表しつつ、4件の授賞に込めたものを要約します。ただしY賞に関しては、選考総評の主な筆者である当基金代表幹事と地理的に近すぎることから、公正・公平を疑われないよう、代表幹事は同エントリーの審査に加わらず、選考総評もY賞部分のみ他の幹事が担当しました。
(※なお、第6回JXAについては未定ですが、その間に何らかのイベントを開催する可能性を含め、見通しが固まり次第JXAサイトやSNSでお知らせします。)
【X賞】
『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書)および講演、動画配信など一連の活動
〈青木美希〉
「なぜ私たちは原発に反対するのか、日本の原発の何が問題で、何が福島第一原発の事故を招いたのか、これらの問いへの答えを、実に総括的かつ整然とまとめた秀作」という選考委員の一人によるコメントが、本書の価値を要約している。史上最悪とされる過酷で複合的な核事故の記憶も反省も風化しつつあるいま、新聞記者として鍛えた取材力と、日本の原子力政策が抱える闇を解明しようとする執念に近い意志力で書き上げた内容は、原発問題に通じていると自負する人でも一読に値する。そして、著者が「おわりに」に記す次の言葉は、X賞授賞の背中を押した。「原発問題は、声を大きく伝えてこなかった報道機関、原子力ムラの一角だったマスコミにも重い責任がある。長く新聞社にいる一員としても、ここで声をあげることに躊躇してはならない。忘れれば、政府は再び同じ道を歩む。私たちの税金を使い、忘却させようとする大きなキャンペーンが行われている。微力でも伝え続けていくしかない。」
【Y賞】
「屋久島町政の不正や不祥事をめぐる一連の調査報道」(ウェブメディア)
〈屋久島ポスト共同代表・鹿島幹男+武田剛〉
面積でいえば国土の実に9割を占める農村部において、行政のチェック機能を持つローカルメディアを地域住民が運営するのは至難の業であり、だからこそ稀有なのだと思う。都市部に比べて人と人との関係が近かったり幾重にも重なっていたりする農村部では、コミュニティの和を乱す可能性がある。それにもかかわらず、より良い町づくりをめざす地元住民や元新聞記者の移住者ら6人が手弁当で運営しているという屋久島ポストは、質量ともにも高い評価に値する――と、多くの選考委員が考えた。このようなメディアが日本中の自治体にあったら、そして「見張られている」という意識があらゆるレベルの権力者に浸透したら、一体どれだけ横領や無駄遣いが減り、国民の税金が有効活用されるだろう。今回の受賞によって知名度が少しでも上がるとともに、「調査報道、かっこいい!」「権力の監視は和を乱す行為ではなく、住民の税金に関わる死活問題なのだ」と共感し、後に続く人や団体が出てくれば、との願いを込めて選ばれた。島という独特の閉じられたコミュニティの中で取材や発信を継続していることの、想像を絶する苦労と努力を讃えたい。
【Z賞(選考委員奨励賞)】(2件)※五十音順
『お巡りさん、その職務質問大丈夫ですか?――ルポ 日本のレイシャル・プロファイリング』(ころから)およびレイシャル・プロファイリングに関するWeb記事
〈國﨑万智〉
「レイシャル・プロファイリング」というまだ耳慣れない言葉を、国連人種差別撤廃委員会の勧告は「いかなる程度であれ、人種、肌の色、世系や国、民族的出身を基に、個人を捜査活動の対象としたり、個人が犯罪行動に関わったかどうかを判断したりする警察及び法執行の慣行」と定義する。本書は、日本におけるレイシャル・プロファイリングの実態を初めて包括的に、しかもわかりやすくまとめ、表紙や対処法のセクションでは、日本語の漢字表記に不慣れな人たちも読みやすいよう漢字にふりがなを添えた実践的な手引書だ(47都道府県警察へのアンケート結果つき!)。「市民によるアクション(介入)を促すもので、マジョリティである自分が『見て見ぬふりをしてはいけない』という強いメッセージがある」(選評より)。今回の受賞によって、「見て見ぬふり」をしない人たちが日本社会のマジョリティに近づくことを切に願う。
『大人になったヤングケアラー ~本当に聴きたかった声~』(映画)および上映イベント
〈米田愛子〉
日本社会のあちこちで人知れず、ギリギリの背伸びを強いられながら年長の親族を介護・介助する子どもたち。かつては埋もれていたが、「ヤングケアラー」という呼び名がついたことでようやく認知され始め、まだまだ不十分でも支援の手が届きつつあるところかもしれない。「なかなか陽の当らない問題を、体験者みずから3人の“大人になったヤングケアラー”への丁寧なインタビューと取材によってドキュメンタリ―に仕上げた貴重な力作」(選評より)――この映画が、今回の受賞を機にもっと多くの人に観られ、必要十分な支援につながれば幸いだ。また、一種実験的な本作を先駆けとして、さらに広く、深く、ヤングケアラーの窮状や打開策を取り上げる記事や映像が現われることにも期待したい。
上記のほか二次選考にノミネートされた案件(応募順)
「ワクチンのファクト」シリーズ
〈立岩陽一郎/InFact〉