ジャーナリズムXアワード

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2023.08.28

【イベントレポート】オンラインイベント 「いまこそジャーナリズムにXを! ~深掘りとローカルインパクトの協奏~」(2023年6月18日開催)

マスメディアの衰退が進んで久しく、政府広報のような報道に愛想をつかす人と、テレビに映ることが真実だと信じる人との情報ギャップが広がり続けています。その亀裂から、ありとあらゆるフェイクニュースが噴き出して市民社会の熟慮と熟議を妨げるなか、小さな声を汲み取り、それに耳を傾ける人々と共有することの重要性があらためて増しています。今回のイベントでは、第3回ジャーナリズムXアワードを受賞した中川七海さん(NPO法人Tansa)と浅野善一さん(ニュース「奈良の声」)をゲストにお迎えして、いまジャーナリズムに求められる「X」を探りました。

 

《動画はこちらから》

当日の動画をご覧いただけます。

 

《開会の挨拶》

ジャーナリズム支援市民基金 代表幹事 星川淳

 

星川:みなさん、こんにちは。ジャーナリズムXアワードの運営母体であるジャーナリズム支援市民基金の代表幹事を務める星川です。

 

 

私は作家・翻訳家として50年近いキャリアのなかで80冊以上の著訳書を手がけるかたわら、国内外の市民活動に数多く関わってきましたが、ジャーナリストというわけではありません。このアワードは、私のようにジャーナリストではないけれども、市民社会のさまざまな活動に関わるメンバーが、日本のジャーナリズムを元気にしたいという気持ちで受賞案件を選んでいます。

 

直接のきっかけは、2010年代の第二次安倍内閣あたりから、政権によるメディアへの介入が露骨になり、それにつれてメディア側のあからさまな“すりより”が目立ち始めたことです。いわゆる忖度報道や気骨あるキャスターの交代が当たり前になる一方で、国境なき記者団が毎年発表する「報道の自由度」ランキングでは日本の順位が急落し、180カ国中68位、主要7カ国G7では最下位と低迷を続けています。

 

権力監視を第一の使命とするジャーナリズムが弱体化すれば、為政者がやりたい放題になるのは世界史の常識ですから、放っておけないと思いました。またジャーナリストのみなさんに本来の仕事をしてもらわないと、せっかくの市民活動も社会に伝わらず、思うような成果が出せないことも、ジャーナリズム支援市民基金を立ち上げる動機でした。

 

ほんの一例ですが、日本ではデモに何千人や何万人集まっても、NHKをはじめ主要メディアにはほとんど取り上げられません。ところが、よその国のことだと数百人のデモでも報じられます。一事が万事この調子で、日本では市民社会など存在しないかのごとくに扱われています。

 

もうひとつの動機は、若い世代に21世紀のジャーナリズムを切り拓いてほしいことです。マスメディアの衰退とともにジャーナリズムを志す人がいなくなってしまったら、この国に未来はありません。挑戦するに値する仕事としてジャーナリズムを見直してもらいたかったし、同時にこれまでとは違うジャーナリズムの可能性を、新しい感覚で探ってくれる次世代に期待したいのです。その気持ちを「X」に込めました。

 

従来型のコンテンツだけでなく、アプリやプラットフォームのような器も評価し、さらには中身と器の相乗作用も評価するジャーナリズムXアワードは、こうして生まれました。そんな経緯から、優れた活動に賞金を出して終わりではなく、伸びしろのある人や企画の将来に託す助成金のようなアワードを心がけています。

 

昨年の受賞者である今日のゲストのお二人は、調査報道ないし探査報道とローカルメディアの最前線で、まさに私たちがこのアワードに託したものを体現して活躍中の方々と言えるでしょう。日本のジャーナリズムにどんな「X」が必要なのか、一緒に考える機会になれば幸いです。

 

 

《プレゼンテーション》

 

 

 

◆「日本のジャーナリズムを諦めていた私が選んだ、探査ジャーナリズム」

第3回JXA X賞: 中川七海さん/NPO法人Tansa

 

東日本大震災が転機、NGOスタッフからジャーナリストへ

 

中川:みなさん、初めまして。Tansaリポーターの中川七海と申します。今日はよろしくお願いいたします。「日本のジャーナリズムを諦めていた私が選んだ、探査ジャーナリズム」ということで悲しい感じのタイトルになっているかもしれませんが、全然そんなことはなく、希望があると思ってやっていますので、そういうお話をしていきたいと思っています。

 

 

私の簡単なプロフィールですが、1992年に大阪で生まれました。いまは東京にあるTansaというメディアにいます。ちょうど高校卒業のときに東日本大震災が起きました。私は関西にいたので直接的な被害には遭っていませんが、これが一つの転機となっています。大学卒業後、被災したエリアの一つである宮城県気仙沼市で、音楽をきっかけに現地に来てもらうための音楽フェスを立ち上げて4年間運営していました。ボランティアで来るのは最初から関心のある人だけに限られますが、音楽をきっかけにすることで構えることなく現地の状況を見て、自分で物事を考えられるのではないかと思って始めました。

 

その後、国際NGOに就職します。アメリカに本部のある国際NGO「Ashoka(アショカ)」で、社会起業家の活動を推進するために、さまざまなサポートをしていました。日々、世界各国のスタッフと話すなかで、日本では社会問題や政治的な話をするのが憚られること、私たちの世代は毎日の報道のこともあまり信じて見ていないこと、そうした違和感や権力への不信感を抱いていました。それで、2020年秋からアメリカにある大学でジャーナリズムとスペキュラティヴ・デザインを学びたいと思い、留学を控えていました。そのときにTansaと出会い、留学と天秤にかけた結果、Tansaでジャーナリストになることを選びました。

 

「探査報道」に特化したNPOのニューズルーム

 

では、私が所属するTansaとは何かというと、NPOで運営している報道機関です。毎日起きたことを報じるニューズルームではなく「探査報道(調査報道)」に特化しています。調査報道という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、私たちは事態を変えるための深い取材をしています。いま調査報道という言葉がホットで、ニュース番組の企画などでも使われていますが、記者クラブに頼っていない報道全般を指して調査報道と呼ばれることも多くあります。

 

一方、Tansaの場合は、記者クラブを軸にしていないことは当たり前。潜入取材をしたり、国内外から集めた膨大な資料を読み込んで新たな事実を見つけたり、必要であれば加害者側に突撃取材をしたりしています。もちろん被害を受けている方々のところにも何度も足を運び、まだ報じられていない、だけど人々が知らねばならない事実を明るみに出しています。そして、より多くの人々に真実を届けるために単にリポートを書くのではなく、探査報道記事を(書き手の視点で)ナラティブに書いたストーリーで伝える工夫をしています。

 

運営はNPOなので、というか、NPOにした理由でもあるのですが、報道機関は権力から独立していないといけません。広告主や公権力からお金をもらってしまうと、遠慮して記事が書けなくなったり、「色がついている」という風に見られたりして信憑性が低くなるため、企業の広告料や色のついたお金は一切受け取っていません。主に個人からの寄付、あとは外国が多いのですが助成金を申請して、なんとか運営しています。

 

国境を越えたコラボレーション取材も行う

 

Tansaでは、日本国内だけではなく、海外にも記事を配信しています。英語で出すだけではなく、海外メディアとコラボレーション取材をすることもあります。最近では、イギリスのBBCで日本の痴漢、性被害のドキュメンタリーが公開されましたが、あの取材にもTansaが一部関わっています。Global Investigative Journalism Network (GIJN)は、探査報道の国際ネットワークですが、ここにTansaは日本で初めて、かつ国内唯一の報道機関として加盟しています。このように、私たちは流行りのニュースを追いかけるのではなく深く取材して報道しています。また、若手ジャーナリストの育成にも力を入れています。

 

このスライドは去年、私がタイで探査報道メディアのスタッフやリポーターたちが集まるカンファレンスに参加したときの様子です。Tansaでは、メンバーが年に1、2回、海外で行われる探査報道のカンファレンスに参加してつながりをつくり、何かあれば連帯したり、コラボレーション取材したりしています。いま大企業が起こす問題というのは一国だけでは完結しません。現場は日本でも、サプライチェーンが外国にも広がっているということもあります。そういう場合には、国境を越えて一緒に取材を進めています。今年も秋にスウェーデンで開かれるカンファレンスがあるので行ってきます。

 

普段は、主にTansaのサイトで記事を公開しています。取り上げるテーマは限定していません。たとえば防衛費の問題、国葬の文書隠蔽、地方創生のお金の使い道がとんでもないものだったという記事など、いろいろです。取材相手も広告代理店、製薬企業であったり、また、核科学者が北朝鮮に拉致されていたにもかかわらず国、警察がきちんと発表していないという事件だったり、幅広くやっています。

 

「双葉病院 置き去り事件」の新しい事実

 

ここから、私のお話やTansaジャーナリズムの実態について話をしていけたらと思いますが、「双葉病院 置き去り事件」というのは、私が2年前に出したシリーズです。このシリーズに対して、ジャーナリズムXアワードを受賞しました。この事件は何かというと、東日本大震災のときに福島第一原子力発電所から4.5キロしか離れていない場所に、双葉病院という大きな病院がありました。診療科目は精神科と内科で、寝たきりの高齢者の患者さんが多くいました。この病院に当時338名が入院していましたが、全員が救出されたのは震災から6日経ってからのことでした。

 

 

その間にも何度も自衛隊が救助に来ていて、近くにも政府がつくった現地対策本部であるオフサイトセンターもあったのですが、それらが撤退してしまった後も、双葉病院の患者さんだけが残されていました。この6日間に25人が亡くなり、さらに、このときの置き去りにされた影響で、3ヵ月以内に計45人が亡くなっています。この問題自体は震災後に取り上げられたことはあったのですが、震災から10年経ってから、私はこのシリーズを報じました。なぜかというと、10年間報じられていなかった新しい事実が明らかになったからです。

 

新しい事実とは何かというと、単に放射線量が高くて救助に来られなかったというわけではなく、自衛隊や行政の救助にあたるべき人々が患者さんを取りこぼしていたり、救助しなくてはいけない人がいるのに「救助完了」にしていたり、防護服を持たずに近づいたために引き返して、そこから丸一日来なかったり、そういった重大なミスを犯していたために救助が遅れていたということです。

 

これが明らかになったのは、当時のことを知っている関係者を検察が聴取した記録を手に入れることができたからです。これまで検察や裁判所が世に出していませんでした。いろいろと頑張って、取材を経て手に入れることができたのですが、なぜ私がこのテーマを選び取材できたのかについてお話をしたいと思います。

 

編集長に止められても報じたかった理由

 

この取材を始めたのは、私が記者になって1年目でした。前職はNGOなので、ほとんど記者経験がなかったのですが、東日本大震災が起きた後にずっと現地に通っていたこともあり、こういう問題があるということを聞いたときから、すごく気になっていました。そこで、編集長に「これをやりたいです」と言ったのですが、「膨大な取材が必要だから間に合わない」と言われました。「間に合わない」というのは、そのとき2020年の夏頃だったのですが、東日本大震災から10年という節目を迎える2021年の3月11日に記事を発信するのに間に合わない、ということです。

 

ジャーナリズムには、そうしたメモリアルなときに報道する「カレンダージャーナリズム」と呼ばれるものがあるのですが、「10年の節目とか関係ありますか。事実が気になりますし、頑張りますし、私は10年の節目とかそういうのは知らないので、やらせてください」という風に何度か交渉して、取材することができました。そして、結果的にスクープを出すことができたわけです。

 

私はもともとNGOから来たので、ジャーナリストになりたかったわけではなく、人々が知るべきことをきちんと伝えられる手段が欲しかったのです。ですから、日々の出来事やカレンダーに沿ったニュースを届けるのではなくて、膠着して動かない問題や当事者が声を上げられる手立てになるものを出したいと思っていました。そういう目的でTansaに入ったんです。いまはもう4年目になりますが、そういう仕事をやっています。

 

日本で探査報道の担い手を増やしたい

 

探査ジャーナリズムの実態を話したいと思います。いま日本で探査ジャーナリズムをやっているのはTansaしかありません。さっき言ったように調査報道をしている新聞もありますし、とてもいいスクープを出しているメディアもたくさんありますが、探査ジャーナリズムがなかなか浸透していないと思っています。

 

事実、世界の探査ジャーナリズムの担い手が集まるカンファレンスに参加しても、日本からの参加者はほとんどいません。ちらほらといても、探査報道・調査報道のプラットフォームは作っているけど、自分がジャーナリストとして取材しているわけではないという方が結構多い。ですから、日本から世界に良い報道が報じられることが少なくなってきています。

 

最初に星川さんがご紹介していましたが、日本の「報道の自由度」ランキングもどんどん下がってきています。日本にいたら気づきにくいかもしれませんが、世界から見ると骨太な記者がなかなか見えにくくなっている状態ではないかと思います。

 

では、私がこれからどうしていきたいのか、というところですが、まずは一人前の探査ジャーナリストになりたいと思っています。まだ編集長や周りの人の力を借りながら取材したり記事を書いたりしている状況なので、そこは着実に腕を磨いていきたいと思っています。また、もっと若い世代に種を撒かなくてはいけないとも思っています。探査ジャーナリズムの担い手を増やしていきたいのですが、いわゆる大学でジャーナリズムを学んだ人や、すでに記者を志望している人だけのものではないと思っています。

 

私ももともとNGOにいましたし、大学時代もNGOにインターンに行き、自分の力で社会に少しでも変化をもたらせられないか、という興味がありました。そういう若い世代、10代20代の人たちを巻き込んでいけたらと思っています。そういったときに必要なのは、いわゆるエントリーシートをうまく書く力とか、学力・偏差値が高いといったことではないんですね。おかしいと思ったら声を上げるとか、周りが誰も動いてなくても自分から何か聞きに行くとか、そういう小さな勇気がある人が、探査ジャーナリストに向いているのではないかと思っています。もちろん技術も絶対必要なのですが、それはやればついてくるものだと思いますので、「どうしてもこれは許せない」「寝ても覚めてもあの問題が心苦しい」「自分で何かやりたい」と思ったときに、探査ジャーナリズムが一つの手法になればと思っています。

 

記者が30人いれば毎日スクープ級の記事が出せる

 

Tansaには、いま記者が3人しかいません。バックオフィスもこの3人と、2人のパートタイム、ボランティアスタッフでやっています。私もTansaの経理、総務、労務といったことをやったり、みんなで助成金を申請したり、なかなか大変な状況です。ですから、記者(リポーター)として専業でできるメンバーを30人にすることが目標です。

 

Tansaに30人の専業記者がいれば、毎日スクープ級の記事が出せる算段がついています。加えて10、20人ぐらいのバックオフィス、カメラマンや動画編集をする人など、全体で多くても50人ぐらいニューズルームにできればと思っています。平均年齢もTansaはすごく若いです。編集長は40代ですが、私は30歳で、もう1人の記者は20代です。すでに腕のあるベテラン記者や、会社を退職されたような記者を呼ぶのではなく、これから一緒に作っていく若いジャーナリストだけ呼ぼうと決めています。ですから、2年、3年という話ではなく、10年、20年後を見据えて、強いジャーナリズムを日本に作っていけるように活動していけたらと思っています。

 

ジャーナリズムXアワードに応募される方、まだ迷ってる方、ジャーナリストに少しでも興味がある方がいらしたら、ぜひTansaのことも一緒にチェックしていただけたらと思います。ありがとうございました。

 

***

 

◆「地域の置き去りにされそうな事実に光を当てる~小さなウェブメディアの挑戦」

第3回JXA Y賞: 浅野善一さん/ニュース「奈良の声」

 

住民の暮らしに近いところで事実に光をあてる

 

浅野:ニュース「奈良の声」の浅野と申します。本日はこのような機会をいただきありがとうございます。地域を取材している「奈良の声」は、活動の舞台こそ小さいですけれども、住民の暮らしに近いところで、置き去りにされそうな事実に光を当てることに努めています。

 

 

奈良県の人口は、約130万人。市町村数は39、古代の歴史遺産がたくさんあり、観光地の印象がありますけれども、隣接する大都市・大阪のベッドタウンとして発展しました。新興住宅地の住民から、「定年になるまで地元奈良のことを知らなかった」という声を時々聞きます。調査報道の大きな力になる情報公開制度ですけれども、利用を住民に限定している市町村が6割近くを占め、こうした地域での取材の壁にもなっています。ちなみに今年4月の統一地方選では、大阪以外で初の維新公認の知事が誕生しました。

 

「奈良の声」はすぐに答えが出なくても、問題がどこにあるのか考え続けることを大切にしています。そうすると、やがて光が射します。その経験が新たな取材への力の源にもなっています。

 

続報で追い続けた、奈良公園の宿泊施設誘致

 

「奈良の声」は続報の数が多いのが特徴です。何年にもわたって追っているテーマがいくつもあります。たとえば、奈良県による奈良県立都市公園「奈良公園」への高級宿泊施設誘致の問題を追いかけてきました。2020年に開業したこの民間宿泊施設の宿泊料金は、1泊2食付きで1人当たり最低でも5万円近く、夫婦など2人で一泊すると10万円もの金額にもなります。これが公共の施設と言えるのでしょうか。公園はお金を持っているか否かにかかわらず、誰もが自由に利用できる開放空間のはずです。

 

この取材を開始したのは2017年です。第一報では、県が発表した誘致計画について都市公園法やその関係法令などに照らし、矛盾する点を特集しました。日本政策金融公庫が一般消費者を対象に行ったアンケートでまとめた国内旅行の一泊あたりの平均宿泊料金からも、かけ離れた金額であることを指摘しました。宿泊施設の誘致予定地は、もともと奈良公園に含まれていませんでした。宿泊施設を誘致するために県が県有地を編入したものです。一帯は市街化調整区域で、そのままでは宿泊施設を建てられません。宿泊施設を公園施設と位置づけることで建設が可能になりました。

 

 

予定地には、かつて大阪の財閥が作った日本庭園の遺構があり、県はこれを復元して一般公開するとともに、宿泊施設を誘致する計画を立てました。県の担当者には、経済力の有無で利用できるかが決まる排他性のある施設は、都市公園法の目的、公共の福祉の増進と相容れないのではないかと尋ねたところ、担当者は「主役は一般公開する日本庭園で、そこに入ることを妨げるものは何もない。そのなかに休憩したり、宿泊したりする施設もある」と説明しました。

 

「奈良の声」は、施設の着工前、宿泊施設側の企業が県に提出した事業収支計画を開示請求しました。高額になるとみられる客室料金を確認するためです。結果は不開示でした。理由は「法人の権利、競争上の地位、その他正当な利益を害するおそれがある」というものでした。県は誘致の狙いとして、奈良公園の魅力向上や宿泊施設不足の解消を挙げました。このもっともらしい理由に対し、公園のあり方を問う声はほとんど上がりませんでした。高い客室料金は、県が求める上質な宿泊施設を反映したものでした。

 

施設開業後も足を運び取材を継続

 

誘致反対を掲げる住民が訴訟を起こしましたけれども、主張はどちらかといえば、歴史的景観や自然環境の保全にありました。2020年5月、宿泊施設の開業より約2週間早くに、日本庭園の一般公開が始まりました。私は公開初日に取材に行きました。そこで、庭園の入口の門に何の案内表示もないことに気づきました。そこが無料で見学できる施設であることを示す情報が何もありません。主役は日本庭園というなら満を持してこの日に臨むのではないか――疑問が湧きました。仮の案内表示が設置されたのはそれから2週間ほど後です。

 

宿泊施設開業後も取材を続けました。一つのことが気になっていました。県が施設の開放性の証として地元住民への説明会で示していた、施設中庭の一般公開が実行されているかどうかです。開業から1年余りを経た2021年8月、私は一般の観光客として、施設玄関先にいた従業員に中庭を見学したいと申し出ました。すると従業員は、プライベート重視のため宿泊客以外は建物内に入れないと言いました。県の説明と違います。

 

県の担当部署に、この一件を伝えました。1ヶ月半後、担当者は「宿泊施設側との間で一般公開の取り決めはしていたが、徹底されていなかった。指摘を受けた後、対応できるようにした」と釈明しました。施設の中庭の見学を希望する観光客もいないかもしれませんけれども、開業から1年以上も経っています。庭園入口の表示の件といい、この中庭の一般公開の件といい、実際はどちらが主役なのかと、わかってはいても言いたくなります。こうしたことを都度ニュースにしてきました。

 

さまざまな角度から問題を検証し、伝える

 

行政が約束を実行しているかどうか継続的に取材することの大切さを感じました。都市計画法の観点からもあらためて検証を行いました。場所は厳しく建築が制限されている市街化調整区域です。公園の便益施設と位置づけることで、公益上必要な建築物とみなされ、建築が可能になりました。公益上必要な建築物として想定されているのは、駅舎その他の鉄道の施設、図書館、公民館、変電所、その他これに類する建築物です。いずれも住民の暮らしに関わる施設です。

 

客室料金が高く、利用者が限られる高級宿泊施設がこれに相当するのか。この宿泊施設の開発許可に関する文書を、許可権者の奈良市に開示請求しました。奈良市が可否を判断するのに必要としたのは、建築物の用途が公園施設であるかどうかだけでした。県が市に提出した書類に、宿泊施設の客室料金を示すものはありませんでした。宿泊施設の中身は審査の対象としていないことがわかりました。おそらく法律そのものが、このような高級宿泊施設を公園施設として想定していなかったのでしょう。

 

このほか、どんな角度からこの問題を伝えられるか考えました。宿泊施設が建つ場所は、通常何も建てられない市街化調整区域です。その隣の第一種低層住居専用地域も、宿泊施設は建てられません。少し離れて、第一種住居地域には宿泊施設は建てられるものの、この高級宿泊施設のような規模のものは建てられません。そうした状況を地図にして示しました。高級宿泊施設が周辺の都市環境から突出していることが目で確かめられました。立場が違えばファインプレーにも、脱法まがいにも見える、読者のそんな感想がありました。

 

公園施設として宿泊施設が認められるのは、周辺に宿泊施設がないなど特別な場合です。奈良公園周辺には、すでに複数の宿泊施設がありました。しかし県は、この特例を利用して宿泊施設を誘致しました。公園の目的に反するような高級宿泊施設が、同じ制度の例外規定によって根拠を与えられる。そんな矛盾した構図が浮かびました。

 

開示文書の丁寧な点検から発見できた問題

 

大和郡山市の缶・瓶のリサイクル業務委託を巡る問題では、開示された文書を丁寧に点検することで、契約書と矛盾する委託料が存在することを発見しました。取材のきっかけは情報提供でした。委託業者が回収した缶・瓶の売却益が市に入金されていないという内容でした。

 

「奈良の声」は、開示請求によって、缶・瓶の使途、組合が交わした業務委託契約書や、組合が市に提出した見積書などを入手しました。この問題は取材を経て、「ごみ収集した缶・瓶の売却益 入金されず、業務委託料と『相殺』 大和郡山市、明朗さ欠く慣行」という見出しで第一報になりました。

 

「奈良の声」では開示された文書を繰り返して点検しました。委託料の一部であるリサイクル機器損料について、委託契約書との整合性がないことに気が気づきました。市は缶の圧縮施設の償却費、維持修理費として毎年136万円を支払っていましたが、契約書は、器材は委託業者の負担と定めていました。情報提供にはなかった内容です。この点を市に指摘すると矛盾があることを認めました。当時の市の担当者も気づいていませんでした。随意契約による長年にわたる同一業者への委託で、契約内容の点検がおろそかになっていました。市は2021年度から問題の委託料を廃止しました。

 

大手メディアにはない目、市民と同じ感覚で

 

小さなメディアだからこそ、伝えられることがあります。記者クラブに加盟している新聞やテレビが受けられる便宜がない分、従来のメディアにはない目を持つことができます。これは少し前の取材になりますけれども、現在も継続している取材テーマですので紹介させていただきます。

 

2015年、奈良県議会の本会議や常任委員会を傍聴したときのことです。傍聴時間が2時間を超えました。県庁駐車場はその少し前から有料化され、駐車時間が2時間を超えると1000円の料金が発生するようになっていました。議会の傍聴が2時間を超えることは珍しくありません。

 

議会事務局に駐車券の無料時間延長を願い出ると、いったんはそうした対応はしていないと拒否されました。私は議会を傍聴して1000円は高すぎる、県民の議会傍聴を妨げると訴えて、やりとりの末に無料券の交付を受けることができました。観光に来て車を停めているのではありません。この出来事をニュースにしました。現在、傍聴者に配布されるチラシには、傍聴時間が2時間を超えた場合、無料券を交付すると記載されています。

 

記者クラブに籍を置く記者は、県庁敷地内に車を停め放題です。困ることがありませんから、県民の県議会傍聴をめぐるこうした壁に思いは及ばないでしょう。議会の傍聴のしやすさ、どれだけ開かれているか、市民と同じ不便さを経験することで市民の感覚に近づくことができます。

 

独立メディアだからこそ可能な報道

 

2021年の奈良市長選では、立候補者5人に公開質問状を送りました。奈良市政を取材するメディアの市長会見への参加資格のあり方と、市政記者室の利用のあり方について尋ね、その回答をニュースにしました。

 

「奈良の声」は市長会見に参加していますけれども、質問は認められていません。記者室も利用できません。記事では、奈良市長定例会見の現状、各立候補者の回答とともに、記者クラブ加盟社以外の記者にも広く会見参加を認めている全国自治体の事例、2021年の世界各国の「報道の自由度」ランキングで日本は67位と低く、それには記者クラブ制度の存在も影響していることなどを紹介しました。

 

記者クラブ制度を巡る問題はニュースになることがほとんどありません。社会問題は新聞やテレビによって報じられることで、その位置を与えられますから。本当は日本の報道を巡る長年の課題なのに、と思います。「奈良の声」のような独立メディアなら、この問題に取り組むことができると思います。

 

お話ししてきたようなニュース展開ができるのは、小さなメディアは活動の自由度が高く、一つの題材に時間をかけたり、丁寧な続報に努めたりすることができるからです。字数にとらわれない記事展開、図表・写真の掲載もウェブなら可能です。

 

奈良市長定例会見への参加を記者クラブと市に認めてもらうのに、文書で申し入れてから半年近くかかりました。質問は認められていませんけれども、知事の定例会見も時々参加しています。奈良県のニュース報道において、こうした変化はこれまでなかったことです。また、行政や制度に影響を与えた事例も、すでにいくつかお話いたしました。

 

 

 

県域水道一体化をめぐっての問題提起

 

精力的に伝えてきたニュースのひとつに、県域水道一体化を巡る問題があります。記事を執筆した記者が30年以上前、奈良新聞の新人記者として赴任した吉野支局での経験が取材の原動力になりました。

 

県は水道一体化の主な水源を吉野の大滝ダムに求めています。記者が在任したのは、山村の集落がダムに沈む前で、住み慣れた土地を追われた人々への思いがあります。市町村の水道経営を巡っては、単独で立ち行かなくなったところもあれば、引き続き単独経営が可能なところもあります。これらをひとまとめにしてしまうことは、水道自治の可能性を奪うものだとの視点で、様々な角度から問題を提起しました。

 

記者は、いくつかの地域の住民運動団体から一体化を考える会合の講師に招かれました。県内最大都市の奈良市と、もう一つ葛城市という2つの自治体が、昨年末までに一体化参加見送りを決めました。「奈良の声」は、早い段階から2つの市の水道を取材してニュースにしてきました。

 

奈良市は100年の水道の歴史を擁し、自前のダムも持っています。葛城市は水道水源にため池を生かし、県内一安い水道料金を実現しています。一体化を巡っては、一体化後に民営化がやってくるのではないかという懸念の声がありました。「奈良の声」はそうした点にも焦点を当てました。今年2月に決定された県広域水道企業団基本計画には、「民営化は行わない」という一文が盛り込まれました。

 

生活保護を巡る問題も継続的にニュースにしています。「市のホームページに生活保護の情報が乏しい」、そんな声を、保護を必要とする人の支援に取り組む人から聞きました。そこで、県内12市のホームページを確認しました。そうしたところ、3市は制度の情報が全くありませんでした。ニュースで指摘したところ、報道を機に情報未掲載の市はなくなりました。

 

まずは活動を継続していくことが目標

 

今後については、ニュースの充実はもちろんですが、まずは活動を維持し継続していくことが目標です。そのうえで固定読者が大切ですので、ニュースレターの登録者を増やしたいと思います。寄付の募り方や助成金についても研究します。インターネットの普及によって情報の地域間格差はないと思いますけれども、独立メディアの支援などさまざまな取り組みに関する情報を収集できていません。今回、受賞を通じてこのような機会を得られたことは、とても有意義なことだと思っています。報告は以上です。どうもありがとうございました。

 

 

***

 

 

《運営幹事、ジャーナリズムXアワードの外部選考委員を交えて対話》

 

モデレーター: 奥田裕之(ジャーナリズム支援市民基金運営幹事)
外部選考委員: 師岡カリーマ・エルサムニーさん、田口一成さん、林怡蕿さん
ゲスト: 中川七海さん、浅野善一さん

 

低い目線から問題点に気づくことができる

 

奥田:まずは今日のゲストのお二人ですが、同じ探査報道でも立ち位置は異なっていて、浅野さんはローカルということ、中川さんはある意味で世界的な視点を意識しながら探査報道に取り組んでいると思います。まずは、お二人からそれぞれの発表へのご感想を一言いただいて、そのなかで質問があれば、それに答えていただくところから対話の時間を始めたいと思います。中川さんから、いかがでしょうか。

 

 

中川:はい。浅野さん、ありがとうございました。ホームページなどは拝見していましたが、直接お話を聞くことができて細部がとてもよくわかりました。私たちはどちらも記者クラブに所属していませんが、だからこそ低い目線から報じられる、問題点に気づくことができるところがあるな、と感じました。

 

Tansaは世界的な報道機関として見られがちですけれども、目線は低く低くしていて、報道も中立ではなく弱者の立場に絶対立つ、事実をもとに真実を報じるという姿勢なので、その点が共通していると思いました。

 

浅野さんへの質問としては、基本的にとても少人数で活動されていると思います。これから助成金を申請したいというお話もありましたが、取材費用など、どれぐらい人件費に対してかかっているのでしょうか。

 

浅野:費用面では、何と言うのか、お話できるような内容がないんです。決してそれが良いことだとは思っていないのですが、いまはほとんど自前を基本にしながら、これまでにいただいたお金を少しずつ使って取材をしている感じです。そこは中川さんのお話を伺って、非常に勉強になるなと思いました。

 

中川:情報公開されると結構費用がかかりますよね。

 

浅野:どういう内容を開示請求にするかによりますけれども、多いときで1000円から3000円という感じですね。中川さんの場合は、もっと多いですか?

 

中川:そうですね、ものによるんですけど何万円とかすぐいきます。

 

浅野:大きな機関だと量も違うのかもしれませんね。

 

活動を支える費用をどう確保するか

 

奥田:浅野さんからのご感想やご質問はいかがですか。

 

浅野:さまざまなテーマに、果敢に挑んでいらっしゃることを感じました。そして、その果敢な行動の支えとなる費用といった面にも、きちんと向き合っていらっしゃるのだろうと思います。そういうところが非常に羨ましくもあり、参考にもなりました。逆に、私も中川さんに助成金などの情報をどのように集めていらっしゃるのかをお伺いしたいです。

 

中川:本当に地道な作業です。Google検索で探したりもしていますが、それだとやっぱり限界があります。そもそも日本語でヒットする助成金は少ないので、そうなると外国の助成金情報を集めることになります。たとえば国際会議に行ったときに、いろいろな人とつながって、とにかく聞きまくって、つなげてもらう。人の紹介が最後はものを言うという感じです。

 

奥田:やはりお二人とも、コストの部分をどうしてるのかが一番気になるということですかね。中川さんのお話では、中立ではなくて弱者のほうに自分のスタンスを置くところが共通してるのでないか、ということでした。先ほどのお金の話にも絡むと思いますが、そのために独立性を強く担保しなくてはならないといことがあります。

 

たとえば浅野さんであれば、奈良県のお金持ちの方から資金をもらってくれば楽なのかもしれませんが、そういうお金の集め方はせずにやってこられたのだと思います。長く活動されてきたと思うのですが、資金の面やそうではない部分も含めて、どういう支援者、支持者がいるのでしょうか。

 

浅野:お金の面については、定期的に支援してくださる方がいらっしゃいます。大変感謝しています。ただ、こちらの努力不足があると思いますが、定期的に支援してくださる方の数は少ないのが現状です。あと、いろいろな市民団体の方から、私を講演に招いていただくことも、たまにあります。それが活動を知っていただく機会にもなっているかと思います。講演に招いていただくというのは、ひとつの活動への評価でもありますし、嬉しいことです。

 

NGOとの関係性やコラボレーション

 

奥田:中川さんが、先ほど、NGOのことをおっしゃっていました。そういう意味では、私たちはこのジャーナリズムXアワードを、市民がジャーナリズムを支えるプログラムとして始めたわけですけれども、やはり市民社会とNGOとやっておられる活動との親和性はけっこうあるとお考えですか。

 

中川:はい、あります。それこそ記者よりも、NGOのスタッフの方が詳しくて正確で速い情報がたくさんあるんですね。例えばインドネシアの西ジャワ州チレボンで石炭火力発電所の開発が進められているのですが、日本では許されていないレベルの、環境にも人体にも悪いものを、日本の会社がインドネシアに輸出している現状があります。そうした詳しい情報を持っているのは現地NGOや日本にある専門的なNGOなので、取材ではそうしたNGOの方々とコラボレーションして、クレジットを互いに載せて記事を出すことはよくあります。

 

奥田: NGOは基本的にシングルイシューで活動していますよね。そういう意味では、報道の場合とは全然違って、報道はもっと幅広いと思うのですが、どういう形でのコラボレーションが望ましい、やってみてうまくいくと思いますか。

 

中川:Tansaからの目線でいうと、まず、そのNGOに対して取材させていただくというやり方があります。あとは、現地に行かなくてはいけないときに、Tansaだけで行くと現地警察などの尾行・監視がつくことがあるので、一緒に行ってガイドになっていただくこともあります。そういう面では、こちらからの一方的な取材を超えてコラボレーションしているような感じになります。

 

奥田:取材対象であることもあれば、コラボレーションの相手でもあると。それはケースバイケースで違うと思うのですが、Tansaはある意味ではNGO的な、市民活動的なものとかなり近いところで活動しているというイメージでも間違っていませんか。

 

中川:はい。ただ、一点だけ決定的に違うのは、報道機関の記者なので敵の懐にも入らなくてはいけないんですよね。被害を受けている側の取材や公的な情報をただ出すだけではなくて、敵の懐に入り込んで決定的なファクトをとって帰ってくる。そうしたことをやっているNGOもあるとは思うのですが、なかなかNGOではできない領域になることも多いので、そこはちょっとだけ違う部分かと思います。

 

奥田:浅野さんは、NGOという言葉よりも、NPOとか市民社会という言葉を使うのかもしれませんけれども、かなり似たものとして、いまのお話などはどう思われますか。市民活動やNPOも含めて、いろいろな問題提起や問題の発見をしている団体があると思うのですが、たとえば浅野さんがやっておられる報道とのローカルにおけるコラボレーションみたいなものはありますか。

 

浅野:生活保護に関しては、支援に取り組む団体とのやり取りをよくしています。その団体が問題として感じておられることを、取材のテーマにすることはあります。ただ、そのほかの団体と協力しながら取材するということは、あまりありません。それよりは、どちらかというと情報提供がたまにあるのですが、それは個人の悲鳴に近いようなもの、というのでしょうか。そういうものに向き合うことが割とあります。

 

奥田:やはりローカルでやっているということで、ローカルのなかでシングルイシューでやっている団体が、そこから社会問題にまで行き着いて活動するということは難しいことなのかもしれないですね。そういう意味では、個人の悲鳴とおっしゃられたような課題が、ローカルであるからこそ、NGOとかを経由しなくても手に入りやすいのかもしれないと思いました。

 

仲間を増やして全体を底上げしていくために

 

奥田:今日のお話は探査報道がテーマで、ローカルともう少し大きなエリアということになりますが、こういう一つひとつの探査報道を全体で見たときの連続性というか、何かお互いにコラボレーションだったり、影響を与えあったりといったものの可能性については、どう思われますか。

 

中川:日本国内だけでいうと、本当にいろいろな地域にそういったものが同時多発的に起きることが大事だと思っています。「奈良の声」さんは本当に面白いですし、実際にその地域でインパクトを出されていて市民の生活に直結していると思うのですが、全国にそういうものがあるかというと、ないところばかりですよね。

 

Tansaも東京に拠点があり、全国各地で起きている問題を取り上げていますが、まだ数が少ないので、いい意味での仲間でありライバルが誕生しないと社会全体としての底上げはできないと思っています。ですから、Tansaだけが成功すればいいのではなく、仲間が増えるような仕掛けも作っていかなくてはと思っています。

 

奥田:いまのお話を受けて、浅野さんはいかがですか。

 

浅野:そうですね。いろいろと手探りのところがあるので、独立メディアとしてウェブで伝えるという点で、学んだり考えあったりできればということは感じています。

 

奥田:奈良以外の地域のメディアとの横のつながりみたいなものはあるのでしょうか。

 

浅野:それはありません。日々、ニュースを追っていることに精一杯になっていて、幅を広げるところには手が回っていないのが現状です。

 

奥田:おそらく浅野さんのような形で、地域で立ち上がってやっておられる方は他にもいると思うのですが、それを横でつなぐ仕組みを誰かが考えないと難しいかもわからないですね。

 

ジャーナリズムは究極的には読者との共同作業

 

奥田:それでは、ここで外部選考委員のみなさまからもご感想をいただければと思います。まずは諸岡さんからお願いできますか。

 

師岡:こんにちは。昨年受賞された中川さんと浅野さん、あらためておめでとうございます。オンラインですが直接お話を聞くことができて、とても光栄に思います。また、お二方が選ばれたときに外部選考委員として参加できたことを、私はのちのちまで自慢したいと思います。ありがとうございます。

 

 

中川さんのレポートは、原発の是非だけではなく、人間の尊厳や良心といったものについて深く考えさせられました。今回のお話は、お二人とも探査報道というところに集中していましたけれども、中川さんのレポートはとても緻密で力強いものであると同時に、非常に誠実で正義感に溢れていたと思います。内容が内容だけに、そしてあまりにも臨場感に満ちているので、時々読んでいて心を揺さぶられてつらくなることもありました。もし私が選考委員で、最後まで読まなきゃいけないという義務がなくても、ちゃんと最後まで読み続けただろうか、読み続けただろうと信じたい、読み続ける人間でありたい、と思いながら読みました。

 

ひとりよがりな言い方ですけれども、つまり読み手にも努力を促すことによって、読み手を高めてくれる記事だと思いました。何が言いたいかというと、ジャーナリズムというのは、もちろん書き手がほとんどの努力を担っているのですけれども、究極的には読者との共同作業だということ。受け手として私たちが読んで考えて何か行動を起こす、それがどんなに小さくても、投票するだけでも、行動を起こすことによって初めて完結して、その実を結ぶものということで、そういう読み手としての責任も重く感じさせるものでした。

 

それはつまり良質なジャーナリズムというのは社会を底上げするものであるという、そういう当たり前の事実の一側面なのかなと思いました。そういう意味で、私のコメントは中川さんに集中してしまったのですけれども、それは浅野さんのローカルな目線におけるジャーナリズムにも同じことが言えると思います。

 

NHKBSでペガサス・プロジェクト(※)についてのドキュメンタリーが放送されましたが、ペガサス・プロジェクトには世界の17もの報道機関が加わっていました。ここには、もしかしたら無駄かもしれない小さな作業がものすごくたくさんあったと思います。こうした壮大なジャーナリズムは、やはりお給料をもらえるからできる作業なんですよね。ですから、Tansaの方々もお金のことをそんなに気にしないで自由に活動ができるような、そういうことが叶う日本になったらな、と思いました。いつか、こういうプロジェクトにTansaも「もちろん参加してます」っていう時代が早く来るように、中川さんのような若いジャーナリストのみなさんを応援していきたいと思いました。どうもありがとうございました。

 

※ペガサスプロジェクト…パリを拠点とする非営利団体のコーディネートにより、10カ国17の報道機関のジャーナリストたちによるコラボレーションによって、スパイウェア「ペガサス」について調査したプロジェクト。

 

活動資金の課題を、僕らがどう解決できるのか

 

田口:お二人とも、今回はおめでとうございます。貴重なお話を聞かせていただいてありがとうございました。選考のときは本当に全てのものをよくよく拝見して審査していて、どれも選び難いなかで賞を決めていくのですけれども、本当に中川さんのものは、僕らのなかで「さすが」というか、ジャーナリズムの一つの本筋を見せてくれるよね、みたいな話になりました。30人のジャーナリストがいれば毎日1本スクープ級のものが出せるんだ、という、そこまでビジョンを描かれているので、あらためて先頭を走っていかれる方だなと、とてもすごいなと思って聞いていました。

 

 

一方で、「ジャーナリズムXアワード」としているのは、Tansaのような方たちもそうなのですが、「奈良の声」のようにその地域地域でやっていらっしゃる、さまざまなジャーナリズムの形があります。たくさんの形、たくさんの角度から社会を良くしていくという意味で、まさに浅野さんの取り組みは「ユニーク」だけでは表せないぐらい、本当に誠実で地道な活動を続けてこられたからこそ、とても少ない人数でこれだけのことができるのか、ということにとても驚かされました。

 

僕が感じたのは、やはり強い正義感でやっていらっしゃるのだなということです。一方で、どうしても活動資金が、こうした方たちの一つの足かせになっていて、課題感があるということに対しては、周りにいる僕らみたいな人間が「じゃあ、どうできるのか」と、あらためて考えなくてはいけないと思いました。もしあとで時間があるようでしたら、「もしお金の課題がなくなったとしたら、もっとこんなこともできるのに」ということも聞いてみたいなと思っています。とても素晴らしい活動をしていただいて感謝しています。ありがとうございます。

 

良質な報道を市民社会が支える仕組みが必要

 

林:まずは、おめでとうございます。オンラインで貴重なお話を聞かせていただきまして、とても嬉しく思っております。

 

 

私は外国人ですから、どうしても外国の事例と比較してみることが多いのですけれども、私が感じた日本のメディア環境について少し感想を含めて申し上げますと、やはり全国紙という主流メディアに対峙する位置づけという感じで、今日のお二人の立ち位置がすごくはっきりと見えてきました。目に見える、あるいは目に見えない弱者の目線に軸を置いて、地道にしかも粘り強く、すごく長い時間とエネルギーをかけて、コストのことはほとんど考えていらっしゃらないと思うのですけれども、良質なジャーナリズムや報道を頑張って続けていることが、はっきりと立ち位置として見えてきたように思います。

 

ただ、主流メディアに対するオルタナティブなメディアを考えるときに、どちらが強いとか弱いとか、いいとか悪いとかいう捉え方をするのはあまりにも両極化すぎて、もう少し接近できる部分というか社会全体の関心を共有できるような仕組み、あるいは社会的な意識の改善が、いますごく大事ではないかと思っています。学生はもう主流メディアをほとんど見ない、読まない時代になってきているので、なおさら社会全体でジャーナリズムとは何かをもう一度考えるきっかけづくりが非常に大事だと思っています。今回のこの場も、このXアワード自体も、いろいろな意味で社会的な役割を背負っているし、その役割を果たしていかなければいけないと私は思っております。

 

それからもう一つ、財源の話ですけれども、日本は貧乏な国ではないのに寄付の文化がほとんどなくて、特に非営利のメディアに対する寄付の文化や習慣が根付いてないようにすごく感じています。国全体はすごい豊かで、高価なものを買うのにも全然躊躇のない消費大国なのに、どうして日本という国のなかで非営利をきちんと支える風土ができないのか、正直不思議に思って仕方がないです。

 

非営利=貧乏、ボランティア=無料っていう考え方が、何か当たり前のように思われていますが、それは違うのではないかとずっと思っています。非営利でも、お金をたくさん持ってもいい。それは、次世代の育成も含めて、どういうところに投資するかなど、そのお金の使い方次第です。もう少し、行政の仕組みとして補助金を出してほしいと思うし、市民社会が一人ひとりのご自分のお金で支えて、良質な報道をつくっていただく、そうしたいい回路づくりがすごく重要だと思っています。

 

Tansaも奈良の声も、限られた経費のなかで、むしろ主流メディアよりも良質なものを頑張って作り続けている現状を思うと、もっと支えてあげられないのかと思います。なので、そこはやはり市民社会に石を投じて、波をつくって、どんどん大きな波につなげていくような仕組みを、社会全体で考えてつくっていく必要があるように思います。ありがとうございました。

 

《質疑応答》

 

助成金を申請する際に気を付けている点は?

 

奥田: Tansaのほうに質問が来ています。助成金は外国からとおっしゃっていましたが、申請先を選ぶときに気をつけていることありますか? ということです。申請先は日本、外国の両方あると思いますが、もし違いがあればその違いなども含めて教えていただけますか。

 

中川:日本でも良い助成金があれば申請するのですが、まず気を付けていること、注意しているのは利益相反です。関係する企業であるかどうか、企業だけではなくNGOでもそうです。いわゆる加害側に回ってる企業かどうか。逆に、たとえばタバコの問題を扱うときに、反タバコの活動をしているNGOからのお金も受け取りません。というのも、そういうところからお金を受け取っているから、反たばこの記事を書くのではないかと思われてしまう。いい面・悪い面の両方とも色がついてしまいます。資金はもらっていないけれど、取材協力をしてもらうときは出所をきちんと出しますし、私たちの記事が本当に公正であることを示すようにしています。それが示されないようなお金だったら、もう最初からもらわないし、申請もしません。

 

もうひとつ、どういうところに申請しやすいかというと、やはり人件費が出るところです。特に日本の助成金に多いのが「人件費には使わないでください。プロジェクトのお金、取材のお金です」と言われことなのですが、人件費がないと私たち記者はアルバイトをしなくてはいけなくなります。そうしたらプロジェクトも全然進まないですよね。結果的に、人件費にも使える助成金が多いのは外国のものになるので、ほとんど外国の助成金という状況です。

 

奥田:中立性を保つために、その問題に対してプラスのところからも、反対のところからもお金をもらわないとなると、ますます大変になってきそうですね。

 

中川:はい、なかなか絞られてしまいます。

 

記者として「当事者になる」ことへの考え方

 

奥田:もう一つ、これはお二人に対しての質問です。ジャーナリズムというのは報ずることが役割で、いろいろな社会的問題に対して、NGOのように直接何か変えていく活動をするものとは少し違うと思いますが、実際に自分で活動をして変えていきたいと思うような場面もありますか。それとも、それはやるべきではないと考えますか?

 

浅野:私は過去に3回ほど、住民監査請求をしました。そのときは、もう住民ですよね。その地域の住民でないと住民監査請求はできないので。本来、我々ジャーナリズムは言論の力によってやるということが大前提としてあると思います。それはわかってはいるのですが、メディアとしての影響力の弱さというか、ここまで調べ上げたのに何の変化にもつながらないといったもどかしさがあって、そのときは住民監査請求をしました。そこには議論があって、批判される方もいると思いますけれども、そういう経験があります。

 

中川:私は「当事者にはならない」というのは気を付けている点です。たとえば、いまダイキン工業というエアコンメーカーが、大阪摂津市の工場で化学物質を垂れ流している事件を追いかけているのですが、住民の方が調査と対策を求める署名活動をしています。私も結構バリバリと取材をして2年ぐらい経つのですが、その署名の一筆も書けません。署名活動としては一筆増えることは大きいと思うのですが、署名することで記者が当事者になってしまうと、それだけで公正ではなくなると私は考えているので、そういうことはしません。

 

奥田:これは本当にいろいろなスタンスがあって、どちらが良い・悪いということではないのだろうと思いますね。

 

もし資金の制限がなければ実現したいこと

 

奥田:もう一つ、先ほど田口さんが質問されたことを聞いてみたいのですが、お金という制限がなくなったときに、どういうふうなことをしてみたいのかという質問でしたでしょうか。

 

田口:はい。どういうことをしてみたいとか、実はこういう形の取り組み方がもっとできるのにお金の制限でいまはできていないこととか。もしお金があったら、どういう世界が実現できるのかを知りたいです。

 

浅野:先ほど中川さんも話されていましたが、いまの体制で取材できているものは、ほんの一部です。いまの小さな体制で取材するだけでも、いろいろな地域の見えてない、隠れている事実が出てくるので、もっとたくさん取材にあたることができる人がいれば、県内各地で同じように埋もれている事実を掘り起こすことができると思います。それこそ、たくさん人がいれば、毎日のように独自と言われるようなニュースを出せるだけの事実が、奈良県内には埋もれていると思います。

 

中川:私も、まず人を雇います。人を雇えばそのぶん記事に専念する人も増えて、記事の本数も増えます。

 

もう一つ、Tansaでは「Tansa School」というのを2年ほど前からやっています。現役の若手記者向けと、小中高大学生を対象にしたコースがあるのですが、社会人向けのコースでは、具体的な探査報道のスキルやマインドセットを教えています。小中高大学生向けのコースでは、「別にあなたがジャーナリストを目指していなくても、ちょっと社会でおかしいことあるよね。そういうときに探査ジャーナリズムの話を聞いてみない?」とか、「インタビューのときに、こういうふうに聞くと変わるよ」とか、内容はいろいろですがスキルだけではなくマインドセットを教えたり、ワークショップを通していろいろなことを体験したりすることをしています。

 

こうした活動は社会の底上げのためにやっているのですが、なかなかそこに手が回っていないので、記者だけじゃなくてこういうプログラムを進めるスタッフを増やしたいなと思います。

 

奥田:師岡さん、林さんから何かご質問はありますか。

 

林:いまの財源の話を聞いていても、それは全然夢ではなくて、海外ではもう普通に実現していることだと思います。別に規模を拡大する必要はないと思うのですが、中川さんがおっしゃった50人体制というのは、探査報道のメディアとしては適切な規模だと思います。なので、本当にそれをいかに実現させられるのか。市民社会に呼びかけて、みんなでサポートして支えていきたい、もう本当に宣伝していきたいなと思います。

 

Tansaとほぼ同じ時期にできた海外の探査報道の非営利メディアでも、もうそれぐらいの規模に達して、国内外でいろんな賞をとり、活躍できる人をたくさんも育てている事例があるので、ぜひ早めに日本でも同じような実績が作り出せるように、私も含めて一緒に頑張っていきたいなと思います。

 

カリーマ:浅野さんのお話から、活動をなさっている中でのフラストレーションみたいなものが感じられました。私は中川さんの記事を読んでいて時々つらくて、それでも読み続けようっていう、そういう意志みたいなものを働かせて読み続けたと申し上げたんですけれども、逆に、あの記事を書かれたときに中川さんが、もうあまりにもつらくて心が折れそうになった瞬間みたいなのはありましたか。

 

中川:そうですね、あまりないです。寝る前に読んだ資料が重くて夢に出てきて、次の日もメンタルがぐったりみたいなのは、よくあるんですけど。この被害に遭った方々はもう亡くなっていたり、遺族が苦しんでいたりするなかで、でも全然この事実が表立っていなくて時間とともに忘れられていることを、取材を通じて生の声で聞いたりすると「やらなきゃ」というふうになるんですよね。そうしたら、なんかもう周りの声があんまり聞こえなくなって、ダーッというふうに私はなってしまうので。心が折れそうなときほど、「私がやらなくちゃ」っていうふうに考えています。

 

カリーマ:素晴らしいですね。

 

弱者のそばに立つことと、「公平性」を保つこと

 

田口:先ほどはお金の話を聞いたのですけど、僕は長崎の石木ダムの問題について毎週ミーティングを有志でやっています。僕はジャーナリストではないので公平性とかはわからなくて、この問題を何とかしたいという明確な意思を持ってやっています。それをどう伝えるかと言ったときに、もちろん公平性に伝えるべきということは一方でわかりながらも、でも自分の意思を持って伝えたくなる自分もいます。そういった意味で、一つは「公平性」をあらためてどう捉えるべきなのかと思いました。弱者の立ち位置に立ち、そのそばから支えるという形で発信するのでは駄目なんだ、ということがあれば勉強のために知りたいです。

 

もうひとつ、そうやって発信しても発信しても、行政などによって法的な根拠でもって強行される、あるいは強制代執行になることが止められない現実があるなかで、もどかしい思いを僕自身がしています。みなさんも、そういうことを繰り返してきたところもあると思うのですが、先ほど浅野さんが少しお話されていましたけれども「本当は、この記事を読んだ方にこういうアクションしてほしい」「もっと社会がこうあったらいいのじゃないか」など、読んだ方や社会に期待することがあれば知りたいです。

 

奥田:公平性が優先されるのか、そうではなくてやはり意思なのか。そういうふうなものについて浅野さんはどう思われていますか。

 

浅野:公平に、なるべく双方に関する事実を提示することは努めています。けれども、やはりその記事を書くときの動機、テーマを選んだときの動機というものがあるので、裁判の判決文のように、均等に双方の主張を書くみたいなことはしていないというか、できていない部分はあります。ただ、ウェブの場合はいくらでもスペースがありますから、相手の言い分を丸々全て載せることもあります。それは、なかなか新聞にはできないことだと思います。そういう点での公平性には務めていて、そのうえで記事としての視点を示して、読んだ方がそのどちらに共感するかというようなことを考えながら書いています。

 

中川:とてもいい質問だなと思います。私もよく悩みます。ただ、記者としてテーマを選んでいる時点で、もう私の主観が入っているんですよね。たとえばいま私は、長崎の海星学園という高校のいじめ自殺事件を報じているのですが、その事件を報じようと思ったのも、私がそれをおかしいと思うからで、その点は全然問題ないと思います。ただ、いま浅野さんもおっしゃったように、絶対に相手の言い分も聞きます。そこはフェアにいかないと。全然対面していないのに賛成派・反対派でワーワーやっていても何も進まないので、絶対に相手の言い分は聞いて報じます。

 

公平性とか中立性を考えるときに「両論併記しなきゃいけない」ということではないんですよね。自分が当事者にならなければ、いろいろ取材して吟味した結果として「こっちがおかしい」ということはきちんと私は断定するようにしています。どうしてもそれができない部分は、読者に問いかけたりすることもあるのですが、いろいろ調べて私がおかしいと思うことはおかしいと書く。「私」というのを主語にして書くことは、別に「公平じゃない」とは思いません。

 

「他人ごと」にせず声をあげる社会に

 

奥田:最後に、先ほどの田口さんのご質問で締めたいと思います。発信しても、それがうまく変化に結びつかないこともあるときに、社会や周りに期待することはありますか。

 

浅野:とても私には難しい質問で、正面からは答えられないのですが……普段ずっと取材をしていても世論への影響力があまり大きくないという部分もあるのですが、とくに行政などが端的ですけれど、その問題点を行政に取材するだけでも変わっていくことは結構あります。そういうことをこれまでよく経験してきました。それでも変わらないときに、どう託すのかはわからないです。

 

中川:止められない現実については、それでも私はやるしかないなと。もちろん工夫しながら、やり続けることで絶対どこかで変化が来ると思っています。どういう社会になればいいかについては、当事者以外が声を上げる社会になってほしいと思っています。自分や友達が苦しんでいるのなら反対の声を上げるかもしれないですが、そうでなかったら「他人ごと」というのでは、社会は変わっていかない。だから、自分に関係あろうとなかろうと「おかしい」と思ったら、なるべくアクションしてみる。そういう意識をもった人が増える社会をつくりたいなと思っています。

 

奥田:みなさん、今日はどうもありがとうございました。

 

 

ゲストプロフィール

 

中川七海(Tansaリポーター)
1992年、大阪生まれ。大学卒業後、米国に本部を構える世界最大の社会起業家ネットワーク「Ashoka」に就職。2020年、ジャーナリズムとデザインを学ぶ米国留学を控えていたが、入学を辞退。探査報道に特化した非営利独立メディア「Tokyo Investigative Newsroom Tansa」の取材の深さと哲学に共鳴し、Tansaでジャーナリストになる道を選んだ。原発事故下の精神科病院で起きた事件の検証報道「双葉病院 置き去り事件」でジャーナリズムXアワード大賞、空調大手・ダイキン工業による大阪での化学物質汚染を描いた「公害PFOA」でPEPジャーナリズム大賞、メディア・アンビシャス大賞<活字部門>優秀賞を受賞。

 

浅野善一(ニュース「奈良の声」)
1961年生まれ、岐阜市出身。山形大学工学部を卒業後、奈良新聞社に入社。県内支局や司法、奈良市政などを担当後、デスク業務に携わり、2009年、48歳で退社。2010年、既存メディアだけでは伝えきれない地域の問題の発掘を掲げて、ニュースサイト「奈良の声」を開設。記者業とは関係のないパートやアルバイトにも従事しながら活動を継続してきた。奈良市土地開発公社による土地の高額取得を巡る問題では、市が公表した報告書をきっかけに県内メディアで唯一、疑惑を掘り下げた。奈良県市町村総合事務組合が投機性の高い仕組債で市町村の退職手当基金を運用して巨額の損失を発生させた問題では、初めてその事実を明るみにした。